近畿大学医学部と附属病院 2023年堺市泉ヶ丘駅前に新築移転
「技術は進歩する。多様性に富んだ若い人に期待」
―大学病院は逆風の時代だと言われています。全職員に同じ方向を向いてもらう方針は。
収入を増やして支出を抑えるのは当然のこととして、外科医でもある私から見て、大学病院は手術を重視しなければならないと思います。それでこれまでの手術室を拡充してハイブリッド手術室にするとか、ロボット手術(ダヴィンチ)専用の部屋をつくることも考えています。現在手術室が13あり、それを17にする予定ですが、今の時代からみれば特別に大きな売り物ではないかもしれません。
さらに、手術の収益と効率を上げるために、各科が自分たちの都合で手術室利用を申し込んでいたのを、中央管理によって各医局や麻酔科の状況を細かく把握して調整しながら、効率よく手術室を使うようなシステムをつくろうとしているところです。
そうやって手術部門にてこ入れするのと同時に、このゴールデンウイーク明けからICUを新たに作り変えてスーパーICUの基準に合致させることにしています。さらに資格を持つ人には報酬を手厚くするなど、給与体系も少し変えることで、現場に今以上のやる気が生まれるかもしれません。
ー近畿大学医学部が誕生して40年。隔世の感があるでしょうね。
この大学病院が建てられた時に私はここに来たんです。
当時は「東洋一の病院」といわれたくらいにきれいで、患者さんが1カ月以上入院するのが当たり前のような、のどかな時代でした。そして時代は大きく変わり、技術もとても進歩して、今や手で結紮(けっさつ)するようなことはほとんどないですからね。手術の質はたしかに上がり、それだけ在院日数が短くなって次の手術が増え、医師はとても忙しくなりました。今後もおそらく、医療技術は進歩するでしょうね。
私が外科医になったころは、初代の院長が有名な外科医で、「立派な外科医は大きく切るものだ」と教育されたものです。それは日本だけじゃなく欧米でもそうでした。それが今は低侵襲でどんどん小さくなり、そのうえ映像技術がすごく良くなり、術者以外の人も自分が手術をしているかのように、目で見て覚えることができます。だから若い医師の技術も伸びやすく、腹腔鏡の手術を多くしているところに1年行かせたら、見違えるほど上達して帰ってきます。
―これからの構想は。
今の病院は、電車でも車でも不便な場所にあります。これから高齢の方が増えてくれば、当然公共の交通機関を使わざるを得なくなります。それで40周年を迎えた2014(平成26)年に堺市の泉ケ丘の駅前に、2023年をめどに新築移転することが決まりました。来院される方にはとても便利になりますから、非常に期待しているところです。それと同時に医学部も移りますから、泉ケ丘の駅前は大きなメディカルシティーに生まれ変わって、若い人も増えるでしょう。そこを堺市も期待しているようです。堺市の医師会長に聞いた話では、全国の政令指定都市で医学部がない市は珍しいそうです。
―医学生に助言があれば。
昔と比較して、今は医療者にさまざまなリスクがあります。でも私は、それが悪いことではないと思っているんですよ。社会が成熟していく上で、患者さんが自分の意見や希望をはっきり言って、医療者もそれに応じるように努める。治療方針は一つではないし、医師がベストだと思っても患者さんのニーズと一致するとは限りません。痛いのは絶対に嫌だと言う方もおられるし、長生きしたいから治すことを第一希望にされる方もおられます。若い医師に私がよく言うのは、患者さんの気持ちを十分聞いてよく話し合うことです。患者さんとの信頼関係が今の医療の基本です。それをうまく築くことができれば、むしろ今の時代のほうが難しくないと思います。
―外科医の魅力は。
やはり自分の手で患者さんを完全に治すことができるということです。それを若い人に伝えたいのですが、時代とともに価値観は変わりますから、ひょっとしたらピンと来ないかもしれません。しかし今の若い人は多様性に富んでいますし、外科の門を叩く人もたくさんいますから、そこに期待しているところです。