基幹災害拠点病院として、大規模災害に備える
災害に強い病院としての備え。さらに人材育成構想への思い。
基幹災害拠点病院として
まずは、4月14日以降続いている熊本地震の被災者のみなさまに、県立総合医療センターを代表して、心よりのお見舞いを申し上げます。
当センターは、今回のような災害が起こった際に拠点病院として機能を発揮することを県民から期待されており、県内唯一の基幹災害拠点病院として、常日頃から有事に備えた体制を整えています。災害時には、ほかに12拠点置かれている地域災害拠点病院、さらに9つの災害医療支援病院と連携し、三重県全域をカバーする計画です。
南海トラフ巨大地震への備え
政府は南海トラフ巨大地震について被害予測を出しており、太平洋に面して長い海岸線を有する三重県においては、県内全域で災害が生じるおそれがある「南海トラフ地震防災対策推進地域」に指定されています。
県でも独自のハザードマップを作っていますが、残念ながら津波で被害を受ける部分がかなり多いことが判明しています。県の北勢地域における基幹病院である市立四日市病院ですら津波被害はまぬがれないという見方もあります。
そんな悲観的状況のなか、幸いにも当センターは高台に移転しているため、10㍍以上の津波にも耐えうると予測されています。災害時に患者さんを被災地外の医療機関に搬送するステージングケアユニット(SCU)として、「広域搬送拠点臨時医療施設」にも指定されており(他に、県立看護大学、三重県営サンアリーナ・伊勢市)、三重大学医学部の先輩である坂口力・元厚労大臣からは「いざというときには、センターが中心になってほしい」というお言葉もいただきました。
災害時には、広域災害救急医療情報システム(EMIS). を使った病院連携の中核を担うことになります。しかも、ここは地下120㍍から地下水をくみ上げることができますし、自家発電で3日間は病院機能が維持できますので、災害にめっぽう強い。近隣住民に水を配る予定ですが、有事には助け合おうということで、地元の方にも病院のために協力する協定を結んでいただいています。災害訓練では、近隣の方が参加して非常食を一緒に食べて、病院玄関にテントを張ったり、模擬除染作業などのさまざまな訓練を行っています。近隣住民の方にけが人役として参加していただくなど、非常に良い関係が築かれていますね。
地域の病院との連携
北勢地域でみると、病院間連携や関係が非常に良好であることも特徴でしょう。当センターと市立四日市病院、四日市羽津医療センター の3病院で、年に数回は「ひまわりカンファレンス」を開催しており、北勢地域の医療の質をどう向上させるのか、グランドデザイン的な視点から協議します。
救急患者については輪番制度を敷いていますので、可能な限り3病院で受け入れることになっています。基幹的な病院同士でこれだけ仲の良い地域も珍しいのではないでしょうか。
先進医療の促進
当センターの大きな使命として、基本理念にもあるように、県の救命救急や高度先進医療を先頭に立って引っ張っていくという役割があります。もともと三重大学の附属病院という形で発足していますので、大学とは関係が深く、高度先進医療では密な連携をとっています。
もうひとつの課題として、三重県は伊勢志摩サミットで注目されている地域ではありますが、医療に目を向けると地域医療を担う医師の確保が難しいという現実があります。人材育成が急務であるため、当センターでは毎年10人程度の臨床研修医を受け入れており、現在は20人弱の初期研修医が在籍しています。この方たちを育てて地域に送り出す、あるいは大学の研究の場で活躍してもらわなければなりません。
地域枠で入学した学生が卒業し始めていますので、十分に研修を積める病院にしなければならないという意味では、当センターはさらに質を高めていかなければならないでしょう。
たとえば、佐賀県は「佐賀県医療センター好生館」という研修所を作って若い医師の育成に力を入れていますが、それと比べると当センターの研修環境は見劣りします。今後は、県民のみなさまにご理解いただいたうえで、人材育成を充実させる武器として、ハード面を拡充させていきたいと考えています。実現すれば、ゆくゆくは県内の医師不足を解消することもできるでしょう。
看護師育成については、今年も40人の看護師が入職しました。当院の看護師が県立看護大学で学位を取得して、ほかの病院で指導的な役割を果たすこともあります。三重県立こころの医療センターの看護部長はここで育った方です。人材育成に貢献できているのではないでしょうか。
地域医療構想に臨む
昨年から地域医療構想の策定が進められており、今年度中をめどに県内を8区域に分けて調整する予定です。
センターが担うべき機能は、理念に掲げるように急性期を担うことと高度救命救急の提供に集約されると思います。高齢化が進んだ社会であってもこれらが求められることは変わりません。社会のニーズが変化すればその都度変わっていきますが、現在の方針としては、四日市の人口30万人、2次医療圏80万人の高度急性期を担い、7対1看護体制を基盤とした手厚い医療を実現していきたいし、それこそが県民に求められている機能であると考えています。
当センターでは、このような医療機能を担うため、昨年は3テスラのMRIを1台導入し、今年は4月1日から北勢呼吸器センターの機能を強化して呼吸器疾患とがんに対応しています。これがうまくいけば医療の先端化という病院の姿が明確になるでしょう。
地域のかかりつけ医との機能分化・役割分担についても、日々連携に努めた結果、65%以上の患者紹介率を達成しており、逆紹介率でも70%を超えています。地域医療支援病院としての機能を十分に発揮していると思いますし、国が進めている地域医療の姿をすでに実現しつつあるともいえるでしょう。