県内の医療レベルをより高く
ー昨年10月に細木病院病院長に就任されました。
高知県立中央病院と高知医療センターでは、外科医として消化器がんと腎臓移植などの手術に注力する一方、副院長や病院長として、日本初の県市中核病院の統合やPFI(Private FinanceInitiative:公共施設の運営を民間の資金や運営力を使って行う新しい手法)事業などを行いました。
その後は、社会保険診療報酬支払基金高知支部の医療顧問という立場で3年間、保険診療の審査、指導にも携わることができました。
おかげで、高知県全体の医療や民間病院の運営についても深く知ることができました。その経験も踏まえて、社会医療法人である細木病院の病院長の話を頂き、自分にやれることをやろうと決心しました。
私が常に目指していたのは、高知県医療のレベルアップに役立ちたいということでした。地方であっても、高知県民が都会と遜色なく、差違のない医療を受けられるようにしたい。それを自分自身のスローガンに掲げています。
ー臨床面でも臓器移植を中心に、世界初、日本初の実績があります。
1980(昭和55)年に、世界で初めて単純冷却法で太平洋横断輸送(ロサンゼルスから日本)の死体腎移植に成功したUCLA(University ofCalifornia, Los Angeles)の一員となりました。日本初としては、1983(昭和58)年に国内最高齢者(68歳)のアメリカ輸送腎にて死体腎移植の成功などを収めました。
高知県内初の腎移植も手掛け、2000年には、県内で日本初の脳死移植ドナーの臓器摘出に執刀医の一人として手術に携わることもできました。
息子も愛知県で腎移植に携わっています。自分の背中を見て、同じ道に進んでくれたということは、自分のやってきたことは間違っていなかったということかなとうれしく思います。
ある学会で、私が座長、息子が演者という計らいもしていただいた時、「実は息子です。よろしくお願いします」。と紹介しますと会場の皆さんも大変喜んで応援してくださいました。
多くの医師を育ててきましたが、彼らに伝えてきたのは「私のコピーになるな」ということです。私の良いところと後輩の医師それぞれの良いところを合体させて、より大きく成長して欲しいと願っています。
ー就任されて半年です。今感じていることは。
当院は、急性期から慢性期にかけての地域包括ケアの医療が中心ですので、私がこれまで手掛けていた超急性期医療とは全く違います。今までの自分に欠けていた経験ができるというフレッシュな感激を持ちながら、刺激的な日々を過ごしています。
当院には、たくさんの良い面があります。臨床面では、内科系が強いのですが、例えば糖尿病の認定専門医が2人、内分泌代謝科専門医も2人います。小児科医は5人おり、土曜日も診療しています。地域に密着した、地元の方にはなくてはならない存在なのだと実感しています。
また、看護師が、患者さんに対して大変優しく接しているのも特長です。一人ひとりが、病院に愛情を持っています。そのため、患者さんの信頼も厚いのです。
さらに、事務職員の意識も大きく違います。当院の事務部門の職員は「病院職員」という意識が高く、病院に対する忠誠心が強いと感じました。大変うれしいことです。彼らの思いに応えるためにも、今後は職員の労働環境の整備に力を入れたいと感じています。
私が常に願っていることがあります。それは、医療職に従事することを許された人は皆、生涯を通じて常に貪欲に知識を吸収して、より一層精進すべきであろうと思います。医療の世界は、日進月歩です。治療方法、医療機器、薬剤など医療の各分野の最新の情報を知っておくことは必要です。もちろん日本だけでなく海外の情報についても同様です。それによって、患者さんの診断と治療の選択は大きく広がります。
ー今後力を入れたいことは。
高知県に総合診療専門医を増やしたいですね。高知医療センターでの外来は、移植後や手術後のがん患者さんのフォローを「総合診療科」で行っていましたが、この総合診療科は一般臨床において非常に重要な役割を果たしています。
実際、私はごく最近、高知県で初めての日本病院診療学会の「病院総合診療認定医」を取得しました。
厚労省は19番目の専門領域の専門医として総合診療専門医を決定しました。総合診療専門医の必要性は今後ますます高まると思います。総合診療医は、やけどの対応ができる、けがの縫合ができる、救急ができる、といった外科的対応ができることも大切ですし、小児科分野の知識も必要です。総合的な幅広い技術、知識を持つ総合診療医の育成への貢献も私の役割だと思います。
さらに漢方の知識も必要ですので、7年前からNKMM(New KanpoMedical Meeting)という研修会を初めて県内で立ち上げ主催しています。あまり知られていませんが、五十肩やこむらがえりなどは漢方薬に特効薬があります。
また、最近は臓器移植のドナーを増やすための活動にも力を入れています。死体からの臓器提供が行われている先進国に比較すると、日本における死体からの臓器提供は極めて少ないと言えます。
ドナーの数が足りないことに加え、臓器移植というと生体間移植が主流という日本の現状は、例えば「夫婦で臓器を提供しないのはおかしい」というような誤った価値観にもつながりかねないのです。また、当院の病院建物は改装や耐震化工事はしていますが老朽化が進んで手狭になっています。このため増改築計画も視野に入れて細木病院の将来構想を今年度中に策定したいと思います。
細木病院高知市大膳町37
☎088(822)7211
http://hosogi-hospital.jp/