医局員の意見を取り入れた教室運営を
岡山大学の麻酔・蘇生学教室は医局員数350人と日本最多の人材を要し、中四国から関西まで広範囲に渡って麻酔科医を派遣している。
森松博史教授に教室の現在と今後について話を聞いた。
●組織力を上げるために
若い先生が麻酔科医療に触れる機会を設けたいとの思いで、当教室では季節ごと、年に4回セミナーを行っています。
春、秋、冬は学内のカンファレンスルームで論文の紹介や人形を使ったシミュレーションをし、夏には一泊二日で香川県の直島でセミナーをしています。
毎年、全国から多くの麻酔科医を志す学生さんが参加してくれます。ひとりでも多くの人がセミナーを通じて麻酔科医の魅力に気付いてもらえたら幸いですね。
人材を育成することがわれわれの大事な役目だと先輩たちから教わりました。その教えを肝に銘じ、今後も若く優秀な人材を、この教室から輩出し続けなければならないと感じています。
麻酔科では個の力より集団の力が求められるので、スーパースターは必要ないと思っています。集団の力を上げるためには組織全体を一定レベルに到達させるための教育が必要不可欠です。
●周術期管理センターについて
私は麻酔科医とはマネジャーだと思っています。もちろん臨床能力は必要ですが、それ以上に多職種をまとめる能力が問われます。周術期の流れが滞らないようにすることがわれわれには求められているのです。
2008年に周術期管理センター(PERIO)を設置しました。当院で手術を受ける患者さんに対して、快適で安全な術前・術中・術後の環境を効率的に提供するために、全国の病院に先駆けて発足した、周術期管理を行う施設です。今では麻酔管理をする患者さんの約4分の1がPERIOを経ています。
麻酔科医の仕事は手術室の中だけにとどまりません。手術を成功させるための下準備が絶対に必要です。外来や術前検査の評価などで、患者さんがどのような健康状態かを把握していないと良い麻酔、良い手術管理はできません。
●麻酔科医に求められる資質
周囲からの信頼と尊敬を得る人間でなければなりません。「この先生は大丈夫だろうか」と周囲の人に心配されるようでは良いマネジャーにはなれません。少なくとも相談しやすい人間であってほしいですね。
医療知識、技術は経験を積むことで、ある程度のレベルには到達できます。しかし、チームをまとめる能力には人間力が問われるのです。
●教室の魅力は
規模が大きいからこそできることがあります。少人数だと周囲に目を向ける余裕がありませんが、この教室には350人もの医局員がいるので各地の関連病院に医師を派遣することも可能です。また大学内にも50〜60人の麻酔科医がいるので、外来や周術期管理、ICU、ペインセンターなども円滑にできているのだと思います。
オンとオフを切り替えやすい環境なので女性医師も働きやすいと思います。実際、今年の新入局員の半分以上は女性なんですよ。
麻酔科の仕事は、いろいろな分野に分かれています。例えば子どもさんがいる女性医師はこの担当、それ以外を男性医師が担うといった工夫でワークライフバランスを保つことが可能です。
●教室を運営する上で心がけていること
医局員の話をしっかり聞くように心がけています。全医局員対象の面談を定期的に行っていますし、懇親会などでも積極的にコミュニケーションを深めています。
私の役割は医局員の意見を吸い上げて、改善すべき点は改善することだと考えています。組織内で入念なディスカッションをしてコンセンサスを得ることが大事なので、今後も医局員の意見を取り入れた教室運営をしていくつもりです。
●今後の目標
出身は愛媛県ですが、岡山には、かれこれ30年くらいいますので、第2の故郷と言ってもいい場所ですね。
岡山の麻酔科医療の発展に寄与したいとの思いから、県の協力の下、周術期管理の普及活動をしています。ゆくゆくは県内すべての病院で一定レベル以上の周術期管理ができるようにしていきたいですね。
岡山大学病院〒700-8558 岡山市北区鹿田町2-5-1
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