急性期医療の砦であり続けるために
鳥取県立厚生病院の前身である「有限責任利用組合厚生病院」は1930(昭和5)年、日本初の産業組合立病院として開設。1963年、県に移管され、鳥取県立厚生病院として診療を開始した。
井藤久雄病院長に鳥取県の医療の現状と病院の今後の課題を聞いた。
■鳥取県の医療の現状
鳥取県の医療圏は東部、中部、西部の3エリアに分けられます。
公的病院が多い東部エリアには鳥取市立病院、鳥取赤十字病院、鳥取県立中央病院、鳥取生協病院などが。西部エリアには鳥取大学病院を中心に山陰労災病院、米子医療センターなどの大きな病院があります。
しかし、ここ中部医療圏には公的病院が当院しかありません。医療圏唯一の公的基幹病院として地域の方々に良質な高度急性期・急性期医療を提供するのが私たちの使命です。
2025年に向けての改革を進めつつ、急性期医療を当院で守り、完結させることを目標としています。
例えば5大がん(胃、肺、肝臓、大腸、乳がん)にもしっかりと対応しており、肺がん、乳がんに関しては大学病院に次ぐ県2位の症例数。治療成績も良好です。
われわれは県民の声に応えていかなければなりません。エボラ出血熱に対応する第1種感染症病床があるのは県内で当院だけです。公的病院なので、不採算な部門を担い、穴のない医療体制の構築を進めています。
■今後の課題
最大の課題はスタッフ不足です。大学に派遣をお願いしてはいますが、眼科、皮膚科、泌尿器科は、常勤医師がいません。
現在50人の医師が在籍していますが、さらに10人ほど確保する必要があります。医師不足の解消は一朝一夕では解決できない難しい問題ですね。
人材が来るのをただ待つだけではいけないとの思いから、高校生に職場見学をしてもらい、医療職の魅力を伝える取り組みも行っています。
鳥取県内に住む高校生は、この地域には働く場所がないと思っているかもしれません。しかし、この病院だけでも500人以上の職員が働いているのです。若者にとっても魅力ある病院にして、地道に職員を増やすことが人材確保の一番の近道だと考えています。
■地域との連携
病院間の連携はスムーズですが、独居世帯や老々世帯が多く、スムーズに在宅医療に移行できていない状況です。
それを解消するために今年4月1日、地域包括ケア病棟を開設しました。在宅への復帰を目指して医師や看護師のほか、リハビリ、ソーシャルワーカーなどの専門スタッフが幅広く関わり、患者さんや、そのご家族と一緒に目標を設定していきます。
この地域の高齢化率は30%を超えており、まさに2025年の日本の姿を映しています。厚生労働省は2025年に向けてベッド数を削減する目標を掲げています。
病病連携や病診連携の強化、急性期医療を中心としたケアミックスの充実、さらに、新専門医制度の対応には300床が必要、と私は考えています。特に、若い医師には多様な症例を経験することが、新専門医制度では求められています。
■ドイツ留学時代
1974(昭和49)年に医学部を卒業後、広島大学第二外科入局。さらに旧西ドイツのハノーバー医科大学に留学し、病理学研究所の助手として勤務しました。
医師としての基礎を築いたのが、このドイツ留学でした。とてもいい経験だったと思っています。当時の私にひとことアドバイスをするとすれば、少なくとも数年の滞在延長を勧めたいですね。
留学当時の私は、まだ独身でした。家族がいる留学生は、自宅で日本語を話していたでしょうが、独り身だった私は家に帰っても一人、テレビを見ても当然ドイツ語。まさにドイツ語漬けの毎日だったので、言語の習得は早かったです。広島市とハノーバー市は1983年に姉妹都市になりました。私がハノーバー市に滞在していた時、広島の代表団の通訳をつとめたこともあります。
日本に帰ってきてからはドイツ語を使っていないので、今、「ドイツ語を話せ」と言われると困ってしまいますけれどね。
■入院経験も
2年前、検査入院したときに、たまたま4㍉の早期胃がんが見つかりました。入院して患者さんの気持ちを実感しました。食事の際、はしが付いていないのを知らず、あわてて売店に割りばしを買いに行ったり(笑)、いい経験でしたね。
鳥取県立厚生病院 〒682-0804 鳥取県倉吉市東昭和町150
電話番号(代表):0858-22-8181 URL:http://www.pref.tottori.lg.jp/kouseibyouin/