地域の命を支え、病院改革を進める
優れた経営感覚と、患者を中心に置いた病院改革――国立病院 機構内でも注目される濵副院長の経営方針、見据える未来とは。
「地域の命を支える」という基本理念を実現するために、さまざまな改革を進められました。経営的には、1年目で黒字転換されています。
2006年に当センターに赴任して思ったのは、地域医療に関して隙間が多いというか、「地域医療を守ることができていない」ということでした。その反面、自分を含めた医療人の役割についても考えさせられた。
そこで、ここは設立当初からがんと腎臓を専門とした病院でしたので、まずは専門医療施設として腎臓とがんの領域を充実させようということで動きだしました。では、それを実現するためになにが必要かと考えたときにふと思い至ったのは、改革というよりもスタッフ全員に良い仕事をさせるための舞台が必要だということでした。
当初は、国立病院機構の整理、合理化の対象にもあがっていましたので、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」については援助を期待できなかった。しかし、苦しい懐事情の中から収益を上げた分を薄く還元して少しずつ改善していくと、その積み重ねで徐々に舞台が整っていきます。
個別にみると、例えば一人ひとりの医師と双方向のヒアリングを重ねて意見交換しました。当初は年に2、3回実施しましたが、現在は年に1回程度か随時対話を重ねて、お互いに対等でモチベーションの上がる環境を作っています。さらに、医療スタッフを充実させて診療支援体制を強固なものにしました。これは事務部門も含みます。
赤字経営とは、すなわち生産性が低いということですので、結局は各職種が生産性を高めていくしかないのですね。たとえば、先日も月次決算評価会を開きましたが、ここでは各医療スタッフ部門について聞き取りを行いました。たとえば、7対1看護体制をどう実現するのか提案させる、看護のなかでも口腔ケアの充実などを目標設定させて、さらに各目標設定が実現できないとしたらどのような理由があるのか、なにか障壁があるのか、などを突き詰めて検討します。
あるいは、放射線治療に関しては、導入した大型医療機器をどのように活用するのか、270床規模でMRIを1台持っていて償還できるような件数をこなせるのか、できないとしたら外の病院に使ってもらうべきではないか。では、そのためにはどう連携していくのか――というふうに、徹底して現場レベルの問題・課題抽出と解決策の提示を行います。
この議論を積み重ねた結果として、少しずつ成功体験が生まれて、さらに「みんなが協力してくれた」という信頼関係が構築できます。結局、改革というのはその積み重ねではないかと思うのです。とくに強調したいのは、医療スタッフがいかに反応してくれるかが改革の「鍵」を握っているということで、病院活性化はこれに尽きるともいえます。
昨年度も黒字経営を達成しました。おかげさまで、「画期的」「驚異的」という表現で評価してくださる方もいらっしゃいますが、個人的には、地域医療や患者さんのために当たり前のことを着実に、まじめに取り組んでいるだけだと恐縮しています。
病院機能については、幹細胞移植センター、腎センターを新設。がん医療については、化学療法センターと緩和ケア病棟を設置しました。
機構内においても、米子医療センター のようなV字回復を成し遂げた病院 は少ない。同機構の副院長むけ講演 会で、濵副院長が講師を務めること もある。写真は、「世界銀行」発行の レポート(2014)。国立病院改革の 項でセンターの実践を紹介している。
冒頭お話ししたように、県西部に不足していた機能を少しずつ充実させていったということです。2人に1人ががんになる時代であるにもかかわらず、ここはがん医療から取り残されていました。県による保健医療計画では、この地域に緩和ケア病棟を30床設置することを決めていたのですが、まったく実現していなかったのです。
院長になった当初から認定看護師を養成してきましたので、山陰地方で初めて、がん関連5領域の認定看護師を置くことができました。県内初のがん患者サロンや相談支援センターも作りましたが、とくに終末期医療に関しては、医師だけではできない「ケア」に重きを置いたがん医療を提供したいと思っています。
患者さん目線の改革ともいえます。センターは設立70周年を迎えましたが、高齢化、人口減など山積する課題に対応して、病院をどのように進化させますか。
鳥取県においても地域医療構想が策定されつつあります。細かく機能分化させて医療の隙間をなくそうというねらいがあるのでしょう。しかし、実際にはまだまだ隙間だらけで、たとえば在宅医療の推進だけとっても本当に実現できるのか疑問です。開業医の先生方が在宅医療に力を入れる余裕はありませんので、われわれがその土壌を開墾するしかないでしょう。
終末期を迎えても住み慣れた場所にいたいという願いは、できるだけかなえてあげたいと思います。当センターは急性期病院ですが、がん医療に関しては緩和ケアという慢性期を持っていますので、在宅と組み合わせてローテーションすることもできます。
これについては病棟も充実させますが、地域連携のサークルのなかでもケアできると思いますので、地域医療研修センターと同時に「在宅医療部」を増築する予定です。今年から工事に入りますが、われわれが行うのは普通の在宅医療ではなく、例えば、がんの認定看護師に訪問看護させるなどの専門的なケアを在宅でも提供しようということです。実現すれば、いまは入院が必要と判断される患者さんでも在宅で診ることが可能になります。
言ってみれば、「がんの拠点病院でしかできない在宅医療」の実現で、センターとしての当面の目標となるでしょう。
米子市車尾4-17-1 ☎ 0859-33-7111(代表)http://nho-yonago-nurse.sakura.ne.jp/