何事にも、不可能はない
現在のセカンドオピニオンシステムは不親切
現在、セカンドオピニオンは当たり前になりつつあります。しかし、私の経験からするとセカンドオピニオンの現状は、患者や家族に多大な負担を強いており、何とも不親切なシステムであると言わざるを得ません。なぜそう思うのか、説明します。
私は、2013年12月の告知後、すぐにセカンドオピニオンを受けました。セカンドオピニオンを担当した医師の見解は、告知を受けた病院の主治医とほぼ同じでした。そのため、その治療法が自分にとって最善の方法であり、どこの病院にかかっても同じ治療を受けることができると思いました。後々、この思い込みが正しくないことを知ることになりました。
主治医のいる病院もセカンドオピニオンの病院も標準治療を行っています。従って、どちらの病院も標準治療を提示するので、同じような治療法になって当たり前です。
しかも、主治医もセカンドオピニオンの医師も、専門は消化器外科です。どう考えてもガイドラインに沿った外科医の見解しか聞けません。
主治医の専門が消化器外科であるならば、違う専門、例えば消化器内科や腫瘍内科、放射線科や緩和ケア科の医師にセカンドオピニオンを求めるべきでした。でも、告知直後のピカピカのがん患者1年生はそんなことを知る由もありません。
これ以外にも注意しなければいけないことがあります。それは、学閥です。医師の世界には、医局制度があります。そして、テレビの見過ぎかもしれませんが、教授を頂点とするヒエラルキーが存在します。
大学の医局からは、系列病院に医師が派遣されています。従って、主治医が所属する(所属していた)大学や医局の系列病院にセカンドオピニオンを求めても、異なる見解を聞くことは難しいのではないでしょうか。
そうなると、主治医の出身大学や医局を調べ、そことは違う大学や医局出身の医師を、セカンドオピニオン先として探す必要があります。
告知後、すぐにでも主治医のもとで治療が開始されようとしている状況で、そこまで調べてセカンドオピニオン先の医師を特定するのは極めて難しいと思います。
では、セカンドオピニオンを本当に有意義なシステムにするには、どうしたら良いのでしょうか。
理想のセカンドオピニオン
私が思い描く理想のセカンドオピニオンシステムは以下のようなものです。特に限定するものではありませんが、ここでは消化器のがんを例にします。
ある病院にセカンドオピニオン外来科があります。その科には消化器外科、消化器内科、腫瘍内科、放射線科、腫瘍整形外科、緩和ケア科などの医師がいます。必要であれば、薬剤師や栄養士もいます。
各医師たちは学閥などにとらわれずに、純粋に自分の医学知識や経験と患者の病状とを照らし合わせて最善と思える治療法を模索します。標準治療にこだわる必要はありません。臨床試験や治験や先進医療の情報なども総動員して検討します。
セカンドオピニオンを受ける患者や家族は、外来予約日の何日か前までに、そのセカンドオピニオン外来宛てに、主治医から出してもらった診療情報を送ります。
診療情報を受け取ったセカンドオピニオン外来科の医師らはカンファレンスを行い、その患者にとって最善と思える治療法を選択します。キャンサーボードと同じです。
つまり、セカンドオピニオンにもキャンサーボードのシステムを導入してはどうかということです。
セカンドオピニオン外来の当日、患者や家族は、セカンドオピニオン外来科の担当医からカンファレンスの結果を聞きます。カンファレンスの結果には、各専門医などの見解が盛り込まれているので、患者や家族はいくつもの異なる科の医師にセカンドオピニオンを聞いて回る必要がなくなります。
一病院のセカンドオピニオン外来科という位置付けではなく、セカンドオピニオン外来に特化した医療機関であってもよいと思います。このようなシステムであれば、患者や家族に負担を強いることなく、真に患者にとって有益なセカンドオピニオンが得られると思います。
私が提唱する、このようなセカンドオピニオン外来やセカンドオピニオン医療機関は、医療機関の採算という点で実現困難であると思っています。しかし、そうではあっても、患者側が望んでいることを声に出して言わない限り、物事は変わりません。誰かが目に留めて、賛同してくれて、実現へ向けて動き出すかもしれません。
一患者に過ぎなかった私が、患者会を立ち上げ、スキルス胃がんの手引き書のような患者向けの冊子を作りたい、先生たちの協力がほしい、と言い続けたからこそ、患者からすれば雲の上のような存在の国立がん研究センターの先生たちに会い、また賛同してくれる医師たちに出会い、話をし、協力を得て冊子を作ることができたのですから。
何事にも不可能はないと思っています。