県央がんセンター開設から1年半 重要なのは「総合性」と「即時性」
―2014年秋に「県央がんセンター」を院内に開設されましたね。
長崎県で「がんセンター」と名前を付けているところは、唯一だと思います。組織的には、外科医、内科医を中心とした診療部門と、がんの患者さんを支援する部門(緩和ケア、地域連携パス、がん登録など)に分けています。
患者さんとさまざまな部門をつなぐ「がん診療リンクナース」を各病棟1人指名し、その病棟のがん看護の核として働いてもらっています。患者さんへの説明に同席してもらったり、患者さんの悩みを聞いてもらったり、つなぐ役目の人がいることは大切なことです。
当院に入院されている方の3分の1は、がんの患者さん。胃、肺、乳房、大腸、子宮の五大がんだけでなく、血液や皮膚などのがんもまんべんなく診ることができるのが特徴で、県内の広範囲から患者さんがお見えになります。
救急の場合は離島からドクターヘリで搬送される患者さんが目立ちますが、がんの場合は、この大村市を含む県央地区と島原半島から、患者さんが多くお越しになります。
―がんセンターの役割は。
重要なのは、「総合性」「即時性」の2つだと思います。
「がんセンター」と名乗るところは、がん診療に特化して、一般診療を提供していないところも多くあります。でも、がんの患者さんがほかの病気にならないかというと、そんなことはありませんよね。
都会では、周辺に病院がたくさんあるので、がん以外はほかの病院へ行ってください、で済むのかもしれません。でも地方では、がんの患者さんに付随して起こる腹痛にも、脳卒中にも対応できる施設で、がん診療もすべき。それが「総合性」です。
「即時性」も大切です。「がんの疑いがある」と言われたら、すぐに、それが事実かどうか知りたい。がんだとわかったら、すぐに治療したい。それが患者さんの願いです。
がんかもしれないと言われたまま、何週間も過ごし、がんが判明しているのに1カ月も2カ月も手術まで待つ。それは、医療者側から見たら、問題ないことかもしれませんが、患者さんからすれば、許容できないことだと思うのです。
今、さまざまな相談支援が病院に集まってきています。もちろん、それも大切なことだとは思いますが、一番大切なのは、正しい診断と適切な治療。基本的なその部分が揺らいではいけないと思います。
―がんセンターができて、変化は。
院内的には、職員が自分の立ち位置と役割を明確に把握できるようになりました。
対外的には、がんに対する知識・意識を高めるための広報活動を活発に進めるようになりました。
がんは、早期発見、早期治療が大切だとわかっていても、実際に自分の体に異変を感じたら、怖いし、認めたくない。「がん」と言われるのが怖くて、検査を先延ばしにする方も、けっこういらっしゃいます。
「がんには、さまざまな治療方法がありますよ」「治るようになってきていますよ」と伝えることで、早期発見につながると思うんですね。そこで、市民向けのがんフォーラムを、年に一度、開いています。
当院の医師が外部などで講演した映像を、外来の待ち時間に流す取り組みも始めています。自分を診療する医師がどんなことを話しているのか見る、聞くこともいいのではないかと思っています。
がんの患者さんやご家族が相談したり、交流したりする、がんサロン「語らん場」も毎週開いています。がんの治療を経験された方がボランティアとして、当院のスタッフとともに治療中の方や家族をサポートしてくださっています。
―今後、患者は増えるのでしょうか。
今後しばらくは、高齢の方が増え、がんの患者さんも増えると予想されます。一方で、昨年の国勢調査の速報値を見ると、長崎県の人口減少率は全国でもかなり高い。将来は、がんに限らず医療が必要な人が減り、維持できない病院が出てくる地域もあるでしょう。さらに人口が減れば、その地域で医療が継続できるのかという問題にまでなってきます。
がんを含め、地方での医療提供体制をどう維持していくのか。地域医療構想の調整会議も始まっていますし、真剣に考える時期にきています。