忙しくても きつくても余裕を見せて スマイルを
―貴院の特色の1つ、呼吸器の診療について聞かせてください。
呼吸器内科、呼吸器外科は当院の大きな特徴のひとつです。
高齢化が進み、高齢者の病気の中で肺炎が占める割合が高まっています。現在では日本人の死因第3位です。高齢になると、足腰が弱り、栄養不足になりがちです。寝たきりの状態になると嚥下(えんげ)がうまくできなくなるので、誤嚥(ごえん)し、気管支や肺に細菌が入ってしまいます。
不顕性の誤嚥が特に問題です。睡眠中に口の中の細菌を飲み込んでしまい、それが肺にいってしまう。むせたり咳き込んだり、ということがないと、誤嚥したかどうかもわからないまま、肺炎が重症化してしまうのです。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)も問題です。喫煙歴が長い人の15〜20%に現れる疾患で、肺胞が壊れ、気管支が狭くなる。症状が進むと、息切れなどにより、活動が落ち、フレイル(高齢者の虚弱、要介護の前段階)にもつながっています。
COPDは自覚しにくい病気です。治療を受けている患者は22万人程度に過ぎないのに対し、2001年の大規模疫学調査で、実際の患者数は500万人以上と推計されています。
「たばこを吸っているから咳は仕方ないこと」だと受診されない方がいることや、息切れするからと動かなくなり、そのために息切れに気が付かないまま過ごしてしまう方がいることが理由だと考えられます。
治療薬が非常に進歩していますが治療の第一は禁煙。当院にも禁煙外来があり、たばこをやめられない人には、呼吸器内科と並行して受診していただいています。
がん全般で罹患者数が増え、肺がんの患者さんも増えています。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など治療法も進んでいますが、医療経済的問題が出てきました。
喘息(ぜんそく)でも、重症度の高い患者さんの場合、分子標的治療薬を使用しますが、高額な分子標的治療薬をいつまで使い続ければいいのか、その止め時の難しさがあります。
喘息による死亡者数は年々減少し、現在は1700人前後。1990年代前半は6000人ほどだったことを考えると、かなり減ったといえます。しかし、喘息で亡くなる人の中の65歳以上の高齢者の割合は、増加の一途で、現在約9割。合併症の問題もあり、解決すべき大きな問題となっています。
結核の患者さんも、まだ一定程度受診されてきます。当院に結核の入院施設はありませんので、入院が必要となれば、入院専門施設に紹介します。
ただ、それ以上に問題になってきているのは、非結核性抗酸菌症。土などの中に存在する弱い菌が原因で、人から人には感染しませんが、患者数は増加しており、決定的な治療が確立されていないのが問題です。
肺が固く縮む間質性肺炎の治療方法は、まだ模索中という段階です。一般的には、やむを得ずステロイド薬と免疫抑制剤を組み合わせて使いますが、まだまだ推奨される域ではありません。病因や病態が解明されていないことが原因です。
「呼吸リハビリテーション」にも力を入れてきました。下肢の筋肉が弱ると強く息切れを感じる。息苦しいとさらに動かなくなるので筋力が低下する。悪循環です。そのスパイラルを逆回しにするのが、呼吸リハビリで、当院は25年以上前から導入しています。
「睡眠センター」もあり、多くの睡眠時無呼吸症候群の患者さんを診療しています。
―今後の展望は。
地域と連携しながら、特色を打ち出していくことが必要です。キーワードは、やはり高齢化でしょう。治療と同時に考えなければならないのが、患者さんの終末期のあり方についてです。
高齢者の方が弱って寝たきりに近い状態になったとき、胃ろうを置くのか、人工呼吸器はどうするか、蘇生は...。それぞれの人とご家族に、事前に考えておいていただく必要があると思います。
―職員教育ではどのようなことを伝えていますか。
患者さんは病院にいるときは弱者です。病気を持ち、不安と心配でいっぱいです。でも、昔はバリバリ働き、社会に貢献してきた方たち。その背景を想像しながら、敬意をもって対応するよう話しています。
医療者の誠意は、軽いフットワークですぐにかけつけること。そして、いつも笑顔で親切丁寧であること。忙しいのはわかるけれど、余裕を見せないといけないと思うのです。そうでないと、患者さんは医療者に聞きたいことも聞けないし、話しかけることもできない。どんなに忙しくても、きつくてもスマイルを、と助言しています。
当院は、職員同士、顔の見える病院の規模です。一人ひとりが病院を良くしていこうという気持ちを持つことが大事ですし、それを提案できる自由な雰囲気をつくることが私の役目だと思っています。
また、研究の大切さも伝えています。疑問を持ったら、研究し、臨床にフィードバックすることが、医療の進歩につながりますから。
病院に来る患者さんや家族の心情を想像し、一生懸命、丁寧に説明することが大事だと思っています。病気が見つかったときはもちろんですが、検査でも診察でも異常がない場合も、病気が見つかった人に対するのと同じぐらいのエネルギーをもって「大きな病気はないので心配いりませんよ」とお伝えする。それが大事だと思いますし、私自身の若いころを振り返っての反省でもあります。