CKD の早期発見・早期介入を
1979(昭和54)年に設立以来40年近い歴史を持ち、腎臓病全般に関する中核的な施設としての役割を担ってきた福岡赤十字病院。満生浩司・腎臓内科部長に話を聞いた。
―現在、成人の8人に1人がCKD(慢性腎臓病)だと言われていますね。
CKDは、腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%以下になる、あるいはタンパク尿、血尿が出るといった症状が続く状態のことです。ただ、国内における成人の8人に1人、約1300万人全員が透析予備軍かというとそうではありません。生まれつき腎臓が小さかったり、もともとGFRが低めだったりしても生活に支障のない方もいます。微量なたんぱく尿や血尿が出ていても、将来、透析が必要な末期腎不全にならない方も含まれているのです。
しかし、実際に症状が出てから受診しても、その時はすでに末期腎不全になっていて、後戻りができないことも多い。早期発見と早期治療が大切です。
検診によってCKDと診断された方のために、当院では、看護師のCKD外来を開設しました。末期腎不全にならないために、この病気とどう付き合っていけばよいか、専門の知識を持つ看護師が時間をかけて説明しています。
腎臓は、糸球体/尿細管という複雑な構造を持つ臓器です。しかも壊れてしまうと再生しません。壊れた糸球体をほかの糸球体がカバーして過剰にろ過を行いますが、やがてカバーしていた糸球体も壊れてしまいます。それが、いわゆる腎不全の進行の悪循環です。これは加齢も原因の1つですので、高齢社会においては、今後ますます患者が増えていくと思います。
昔は、透析患者というと、免疫性の疾患である慢性糸球体腎炎患者が主で、40〜60代に多くみられました。現代では、慢性糸球体腎炎に関する治療学が発達し、免疫抑制療法などで早期治療が可能になりました。特に日本では、学校検尿、職場の健康診断などがシステム化されており早期発見・早期治療が可能です。
一方で、糖尿病・高血圧という2大生活習慣病が原因でCKDになる人が増えていて、透析を始める年齢が70〜80歳ぐらいに上がっています。
透析をして腎臓だけをカバーすれば元気に過ごせる方がほとんどだった昔と違い、今は寝たきりの方や介護が必要な方などが多くなっています。
―長時間透析は体への負担が少ないと聞きます。
透析治療が必要だということは、尿毒症、つまり体内の老廃物を排出できずに貯留してしまっている状態だということです。一種の中毒状態ですから、体がだるい、体液が溜まって胸が苦しい、むくみがひどい、血圧が高いなど、いろんな臓器の不具合により体はつらいはずです。それが透析を受けることで解消されるので、体は楽になります。ただ、心臓が悪い、血圧が不安定であるなどの持病がある方にとっては、一定の時間血液を循環させ、体液量も人工的に減少しますので、体への負担が感じられる場合もあります。
腎臓は24時間365日無休で働き続ける臓器ですから、本来であれば人工透析も無休でするべきかもしれません。しかし、透析医療は命さえ長らえればいいというものではありません。目的は、これを行うことで社会的、家庭的に復帰していただくことです。そのためには、ひたすら長い時間透析をやればいいということではありません。患者さんができるだけ開放される時間もつくりたいのです。
かといって、透析時間を短くすると、充分に尿毒素を除去しきれず、尿毒症の状態に戻ってしまう...。このように相反する利害を折半すると、週3日、4〜5時間の透析が適当だということになります。「週1、2回にできませんか?」という患者さんもいらっしゃいますが、それでは足りない。逆に週4〜5回に増やすと、休みがほとんどなく、透析のためだけに生きているような状態になってしまいます。
現在、九州大学を中心としたわれわれ福岡のグループでは、患者さんの生命予後を鑑みて、週3日、5〜6時間透析を行っています。
フランスなどでは、8時間透析をやっている施設もあります。ここまでやれば、充分に尿毒素は除去され、体液をうまくコントロールできることになり、血圧を下げる薬、造血を促す薬などもいりません。1〜4㌔の水分を一定時間で体から抜くわけですから、透析時間は長ければ長いほど体に優しい治療になります。
福岡ではまだ実施されていませんが、関東・関西圏ではすでに、オーバーナイト透析が行われています。仕事を終えてから夜9〜10時に透析施設に行き、透析を開始するのと同時に眠る。そして翌朝6時ごろに透析を終えて出勤するというものです。これなら、日中のQOL(生活の質)を保ちながら治療を受けることができます。
当院ではこれに準ずる方法として、週4〜5回、自宅で自らの手で血液透析を行う家庭透析を実施しています
―腎臓内科部長としての抱負をお聞かせください。
市内のCKDに関する取り組みの中で、大きな変化を感じるのは、「よかドック(福岡市国民健康保険の特定健診・特定保健指導)」などの検診システムの受診率向上と市の保健師さんたちの積極的な動きです。これにより、早期のCKD患者さんをご紹介いただく件数が増えました。行政、そして、地域医療に携わる多くの方々の意識が変わってきたことを実感しています。われわれ腎臓内科医も、CKDの早期発見・早期介入にさらに努めていきたいと思います。