教室の文化として定着してきました
●低侵襲な治療
胸部・内分泌・腫瘍外科学教室ではCTリンパ管造影(CTLG)による術前リンパ節診断を早期の食道がん、乳がん、肺がんなどに対して行っています。
これまでの造影CTによるリンパ節転移の診断率は約6割ですが、CTLGによる術前リンパ節転移診断は、乳腺では98%と診断率が飛躍的に向上します。
CTでリンパ管造影を行うのは、極力、患者さんに負担をかけないためです。これまでは患部だと疑われる場所が、はっきりとしなかったため広い範囲を切除しなければなりませんでしたが、98%の診断率ですとピンポイントに切除したり、切除を省略することも可能です。
●ピンクリボン活動
毎年「徳島ピンクリボン集会」を行っており、昨年は8月15日に開催しました。全国の患者会の方や乳がん治療を終えた方々を中心に、総勢250人が参加しました。
がんの専門医による市民公開講座の後、参加者のみなさんで阿波踊りに参加します。桟敷のお客さんの前で踊るのですが、毎回、注目を浴びますね。
全国各地のピンクリボン活動では建物などをピンクにライトアップしますが、徳島ではやっていません。ライトアップと同じぐらいインパクトがあって地域色もある阿波踊りは徳島でしかできないものだと思います。
阿波踊りをすることで患者さん自身の健康にも好影響を与えます。
乳がんの手術をした人はリンパの流れが滞りがちで、手がむくむといった症状が出ます。手を上にあげる阿波踊りの動きは、むくみ解消におすすめです。真夏に行うため汗だくになり、良い運動にもなります。汗を流すことでストレス解消になりますし、検診普及のためにやっているという精神的な充実感も得られるでしょう。
有料桟敷にいる大勢の観客の前で、スポットライトを浴び、晴れの舞台で踊ることで、気持ちにもハリが出るのではないでしょうか。
私が当教室の教授に就任して12年が経ちました。就任してからは、ずっとピンクリボンなどの社会活動に力を入れてきました。10年以上続けてきたので、教室の文化として定着してきたと感じています。
教室運営に関しては、強制をせず、各人の意志を尊重しています。小・中学生ではないので、自分で問題を見つけ、解決することが重要です。
●四国の地域医療を守る
徳島大学は、四国で最初に医学部を設置した大学です。四国全県に関連病院があり、各地に人材を送り出しています。四国全体の地域医療を守っている存在だと言えるでしょう。
今後も各県の大学と協力しながら、地域医療を維持していくことが私たちに求められています。
●日本の医療の行く末
昔は患者さんの命を助けられる、助からない命が救える科だということで外科や内科が人気でしたが、今は医師個人のQOLが保たれる科に人気が集中しています。
それはなぜか。日本では医師に対する評価が、どの科でもいっしょだからです。日本の医療の行く末を考えると、リスクが高く過重労働の科とそうでない科で、報酬面など評価の差をつけないと人が集まらないと思うのです。
医療事故などが起きるとマスコミは負の側面ばかりをクローズアップします。しかし、医療者は患者さんの命を救いたいと願って医療を行っているのです。リスクの高い手術をすれば危険も伴い、患者さんを助けられない確率も上がります。しかし、マスコミは失敗したという結果のみを強調して報道しがちです。それでは、リスクの高い手術をする医師が減るのは当然の結果ではないでしょうか。
大学病院では、これまでリスクの高い高度な手術を担ってきましたが、その担い手が減少しています。その結果、手術さえすれば助かる患者さんさえも、救えなくなるのです。
●国民皆保険制度を守るために
日本が世界に誇る、国民皆保険制度の存続が危ぶまれています。同制度をどのように守っていくのか、誰がイニシアチブを握って今後の医療政策のかじ取りをするのかを真剣に考えるべき時期です。それには医療者など、専門的な見地から意見を述べられる人が、もっと多く出てこないといけません。
●信用が大事
医師とは人の命を預かる職業です。それを一生の生業(なりわい)にすることは、人のために生きるということです。
しかし、それは医師に限った話ではありません。今月2日に最終回を迎えた朝の連続テレビ小説「あさが来た」の中で、主人公の広岡浅子さんも「商売は信用が大事」だと言っています。信用とはなにか、「この人は自分のためだけではなく、人のために事をなせる人だ」と世間に認識されることです。
医師の仕事は、患者さんから信頼を得ることが何よりも重要です。日々、自らを高める努力をしないと患者さんにご迷惑をおかけします。1人でも多くの人を救うには、自分を磨くことが大事なんです。そうすれば、自ずと信用が得られます。信用を得ると自分に自信がつき、患者さんにもそれが伝わります。簡単なことではありませんが、そんな医師を数多く育成したいですね。