精神科医は生涯続けられる仕事
―講座の特徴的な研究は。
認知症グループの森崇明講師を中心に行っている愛媛県伊予市中山町での研究は、1997年に開始されたもので、同町に居住する65歳以上の高齢者全員(約1500人)が対象です。
面接調査を行い、その中から認知症の可能性がある高齢者を抽出し、2次、3次調査により、どのタイプの認知症が多いのか傾向を分析しています。
同じ地域で同じ対象を追った調査が、15年間も続けられたことの意義は大変大きいと思います。例えば、どういう方が病気になり、どういう方が病気にならなかったのか、そのような分析もできました。
また、これまで日本では脳血管型認知症が多いといわれていましたが、今回の研究で、アルツハイマー型が多いことも明らかになりました。
今後もこの研究は継続していきますが、新たに生物学的要素の分析も加えます。昨年度は認知症の原因といわれるアミロイドβタンパクの研究で、当講座が愛媛医学会賞を受賞することもできました。
また、当研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の共同研究に加えられることになりました。福岡県粕屋郡久山町では同様の地域調査が50年以上続いています。この研究を手掛けている九州大学の清原裕教授を中心に、認知症の全国的な研究として広がりが出ると期待しています。
―上浮穴郡久万高原町では中学生を対象とした研究も実施しました。
2013年に始めた、中学生対象のアンケート調査を中心にした研究で、こちらは堀内史枝講師が携わっています。
自殺傾向と子どもの精神状態の関連、それに加え、その家族の精神状態の影響を調べるものです。同町の中学1年生から3年生まで約220人と、その家族約185人から回答を得て分析を行いました。
こちらの研究のポイントは、アンケートに協力してもらった中学生に対して「精神疾患とは」「精神的な発達とは」といったテーマで講義を行うことです。中学生自身が心の問題に向き合うきっかけとなるでしょう。
その延長線上で、伊予郡松前(まさき)町でも、中学生とインターネット依存についての研究を昨年度始めました。
アンケートでは、インターネットの利用とあわせて、睡眠と生活に関する質問もしますので、思春期や生活リズムとの関係性も分かるかもしれません。依存症は、精神障害の一つであり、この研究を継続的に行うことで、青少年期の一般的なデータとして、国内でも貴重なものとなると思います。
―県内で特に力を入れていることは。
2点あります。まず、DPAT( Disaster Psychiatric Assistance Team=災害派遣精神医療チーム)の活動の充実です。DPATとは、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大規模災害の経験を受けて始まった災害時の精神科的取り組みです。
被災直後からトリアージや応急処置を行うDMAT(Disaster Medical Assistance Team =災害派遣医療チーム)とは異なり、被災地に継続的に入って、精神医療や精神保健活動の支援を行う専門的なチームで、精神科医師、看護師、作業療法士、薬剤師、臨床心理士、後方支援をするロジスティクスなどチームで構成します。
災害時やそれ以降の心のケアが重視される中、厚生労働省は、2014年1月にDPATの活動要領をまとめ、都道府県・政令指定都市にチームを整備しようとしています。
愛媛県のチームは"手上げ制"で、現在登録者数は100人を超えています。私はこの愛媛県版DPATの運営委員長を務めており、1年ほど前から準備を進めていました。今年登録者研修会を2回開催していますが、愛媛県では、医療職によりばらつきがあり、バランスよく配置できるかという課題があります。
ただ、南海トラフ地震による大規模な被災も想定されていますので、それも踏まえて現状での最善の支援システムを作っていきたいと考えています。
―もう1点は。
県内精神科の24時間救急システムの確立です。現在、県内では、24時間365日精神科を受診できる体制がまだ整っていませんが、本年度中には、方向性が見えてくると思います。相談している愛媛県、愛媛県医師会、日本精神科病院協会愛媛支部、日本精神神経科診療所協会愛媛県支部、愛媛大学のすべてが同じ方向で考えており、これから具体的に動いていくと考えています。
―精神科医のやりがいとは。
認知症が社会問題化していることもあって、精神科医のニーズが高く、その分やりがいも大きいと思います。
また、医師自身が年齢を重ねてもやり続けられる仕事だとも感じています。そして、一人の患者さんに生涯関われる、つまりその人の人生に長く関われるという喜びがあります。
当講座には、神経化学グループ、神経心理グループ、児童青年期精神グループの3つのグループがあります。特定のグループだけでなく、興味のあるテーマがあれば、別のグループの研究に携わることも可能です。例えば、生化学の研究もしながら、認知症にも興味があればそちらも研究でき、結果として患者さんを総合的に診るということにつながります。また、本学には診療科の垣根を超えて一緒に研究できる文化があるのも、良さのひとつです。