福岡ホスピスの会公開講座で樋野興夫順天堂大学教授が講演
福岡ホスピスの会(柴田須磨子代表)は2月13日、順天堂大学医学部の樋野興夫教授をカトリック大名町教会に招いて公開講座を開催、200人が集まった。樋野教授は2008年に「がん哲学外来」を開設。メスも薬も使わず、言葉の処方で3千人以上のがん患者と家族に希望を与えたとして有名。
主催者あいさつで、柴田代表は、「公開講座は3年ぶり。がんと仲良く生きるための秘訣が聞けたら」と期待を述べた。
講演のタイトルは「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」。樋野教授は「人生に期待するから失望する。人間は、最後の瞬間まで、死ぬという大切な仕事が残っている」と会場に語りかけた。
さらに「寄り添うのと、支えるのとは違う。子どもでも象には寄り添えるが、重くて支えることはできない。会話と対話も違う。会話は言葉によって成り立つから、人を傷つけることがある」と語った。
また、3,000人のがん患者と家族に接した経験から、病気や治療の悩みは3分の1、3分の2は人間関係の悩みで、「日本人は冷たい親族に悩み、温かい他人を求めている。がんになった奥さんの悩みは夫の心の冷たさ。夫ががんになれば、妻の余計なおせっかいが悩み」と参加者を苦笑させた。
質疑応答で九州がん患者団体ネットワーク「がん・バッテン・元気隊」代表の波多江伸子さんが「がん哲学外来はユーモアとゆとりのある新しい部門のような気がする。これまで、もっとも相手に届いた言葉は何か」と質問。樋野教授は、「自殺未遂の人に『あなたには死ぬという大切な仕事が残っている』と言うと何かに気がついてくれる」と答え、「みんな自分の器に水を入れて待っている。がん哲学外来は、それぞれが空っぽの器を用意して、来た人が自らの水を入れる場。沈黙のまま30分間、お互いが苦痛にならない存在になれるかどうか」とコメントした。
がんとストレスについて中年男性に問われた樋野教授は、「ストレスがあってもがんにならない人は大勢いるし、楽しい日々でもがんになる人も多い。純度の低い情報に一喜一憂せず、放っておけばいい。どうせみんな死ぬ。自分のプレゼントを誰かに残して去っていくのが人生」と答えた。
ボランティアについては「日本のボランティアには悲壮感が漂い、それが顔に出て、相手を苦痛にしている」と見解を述べ、「ボランティアに必要なのは知識ではなく心の姿勢。がん哲学外来はそれを学ぶ場」と語った。
がんのまま終末期を迎える人にどんな声をかければとの質問には、「相手に好かれていれば沈黙でもいい。がん哲学外来をつくったのは、悩める人が集まれる場所を用意すべきだと思ったから。人口1万5千人に1カ所として、全国で7千カ所必要になる。医療従事者である必要はなく、人として同じ目線で、一緒にお茶を飲めばいいだけ。自分にできないことは専門家に任せたらいい。その窓口になってほしい」と結んだ。