ITを駆使した高齢者医療を展開中
足助病院は愛知県豊田市の北東部にあり、中山間部におけるへき地医療拠点病院として、地域住民の安全を守り、文化的な地域づくりに取り組んでいる。
早川富博院長に病院の現状と新しい取り組みについて聞いた。
●幅広い医療の提供を
この地域は高齢化が進行していて、私は少子高齢化の先進地区だと思っています。また高齢化に加えて過疎という問題も抱えているへき地であり、医療を行うには市場性のない地域だといえるかもしれません。
われわれの使命は、この地の住民の健康寿命に寄与し、最期まで診ていくことだと思っています。そのために何をやればいいのかを日常の診療をしながら模索しているところですね。
足助町は2005(平成17)年に豊田市と合併しました。市の中心部へはここから車で30分ほどで行けますが、中心部と足助町とでは住環境も医療環境もまったく異なります。
へき地において必要な医療とは最先端医療ではなく、幅広い領域をカバーする通常の診療だと考えています。そのため最先端医療が必要な患者さんは、ヘリや救急車を使い、市街地の病院に送っています。
●地域に開かれた病院
当院は「開かれた病院」をキャッチフレーズとしていて、地域のコミュニティーの場として病院を開放しています。実際に玄関を入ってすぐのホールを地域住民に開放していて、バスの待合所や触れ合いの場として機能しています。患者さんや、そのご家族だけでなく、地域の人たちがいつでも気軽に出入りできる病院でありたいですね。
過疎地で人が一番集まる場所は病院なので、院内でいろいろな催しや健康講座を行っています。「ロコモ予防教室」、「脳イキイキ教室」を月2回、「院長サロン」といって地域のみなさんとざっくばらんにおしゃべりする会を月に1回、開いていますし、月2回の歌謡教室には先生が来て歌のレッスンをしています。来年の春から夏にかけては病院の中庭での野外コンサートを予定しようと考えています。
高齢者の健康寿命を延ばすためには、バランスの良い食事をし、よく動いて、人と会って話をすることが重要です。
高齢者にとって病院に行くこと自体がイベントです。一部では病院がサロン化していることを問題視する意見もありますが、私は医療機関が高齢者のコミュニティーの場
●地域の病院は地域でつくる
地方の病院としては、かなり早い時期に電子カルテを導入しています。「あすけあいカード」という医療と交通のサービスを1枚にまとめた次世代型ICカードも導入しています。カルテの情報などが書き込まれ、救急搬送時に救急隊が氏名や病歴が読み取れ、バス運賃の支払いまでできるカードです。田舎だからこそ、こういう便利なシステムを積極的に利用す
2015の11月から「健康見守りネットワーク」を開始しました。これはIT機器を用いて地域全体で独居の高齢者を見守る取り組みです。
申し込みをした独居の人のお宅に人感センサーを設置することで、その人の動きを感知、クラウド上に生活リズムがグラフで表示されます。もしセンサーに24時間反応がない場合、離れて暮らすご家族や、ご近所の友人、ケアマネージャーなどのもとにメールでお知らせが届きます。
人感センサーのデータは、当院もパソコンやスマートフォンで共有しています。このデータを解析することで、その人の動きが低下していないかどうかが把握でき、健康
田舎であっても人と人の交流は希薄になりつつあります。「健康見守りネットワーク」により独居老人を見守る強固なネットワークが完成し、地域全体で地域問題を考える新しい仕組みが出来上がったと思っています。
●へき地だからこそ学べること
開業前の医師は、当院のようなへき地の病院に来られたら、とても勉強になると思います。あらゆる疾患を診ることができますし、在宅医療と行政や福祉・介護との関係が学べるので、2年も働けば開業するための十分な知識が身につくと思います。
大病院に長くいて、いきなり開業されても最初は戸惑うことばかりだと思います。患者さんに対する接し方も大病院とは大きく異なります。へき地の病院では患者さんの疾患のみならず、家族背景、社会背景を全人的にみていかなければなりません。
当院では都会の病院では学べないことが学べます。最大限バックアップします。開業を考えている医師は、当院にきてくれたらと願っています。