福岡がん患者団体ネットワーク がん・バッテン・元気隊 代表 波多江伸子
がん患者の新年会で、「今年の目標は?」と訊ねたら「1年間生きていること」と答えた人が数人いました。医師から、「余命3か月」「余命半年」と告げられた患者たちです。仲間は懸命に「余命告知の的中率は30%だって」「医者は短めに言うのよ」などと慰めます。
かつて、「がん告知」の是非が論争された時代がありました。今では、病名を伝えるのは当たり前で、訊ねなくても余命さえ告げられます。医師の側も気を遣うでしょうが、言われた患者は茫然自失。顔面蒼白で看護師に支えられながら診察室をよろめき出て、以後、もうそのことで頭が一杯になります。Xデーに向かってカウントダウンが始まり、焦燥感で居ても立ってもいられません。残された3か月なり半年なりを、心静かに人生の整理と別れの時間に使うことのできる人はそう多くないものです。5年生存率2%と言われても、「ならば、その2%に入ってやる」と死にもの狂いの闘志を燃やす人、絶望のあまり死ぬまでうつ状態で過ごす人。末期がんが治るという触れ込みの、法外に高額の代替療法に走り、亡くなった後、家族が借金の返済に苦しむケースも見てきました。何のための余命告知なのかと思うこともしばしばです。
告知後の患者の激しい苦しみを理解し、この危機的状況を支えてほしい。私たちピアサポーターもできるだけの支援をしていますが、余命告知が当たり前になれば、その後のケアは、緩和医療の総力を挙げて対応すべき問題です。すべての医師が「緩和ケア研修」を受講し、同時に緩和ケア専門医やサイコオンコロジー科医師・がん専門臨床心理士やがん専門看護師など、余命告知後の患者の精神心理的な苦痛に対応できる人員を増やすことは、これから最も必要な対応策ではないでしょうか。