独立行政法人国立病院機構 豊橋医療センター 市原 透 院長

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心のこもった医療の提供を

いちはら・とおる  1951 年岐阜県生まれ。専門領域:消化器外科 1977 年名古屋大学医学部卒、岐阜県厚生連端浪昭和病院にて研修、1978 年岐阜県立多治見病院外科勤務、1979 年名古屋大学医学部第二外科入局、1988 年国立豊橋病院外科勤務、1991 年国立名古屋病院外科勤務、1996 年同外科医長、2002 年国立豊橋病院副院長、2005 年国立病院機構豊橋医療センター副院長、2009 年4 月より現職。

 豊橋医療センターは、2005(平成17)年に旧国立豊橋病院と旧国立療養所豊橋東病院を統合し、総ベッド数414床の総合病院として開院。今年で開院10周年を迎えた。

◆統合までの道のり

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 私が旧国立豊橋病院に赴任したのは2002年のことです。当時、建物は老朽化し、新たな医療機器の整備もなされておらず退職する医師の補充も途絶えて、経常収支率は最悪でした。また、統合相手の旧国立療養所豊橋東病院においても同様の状況でした。

 3年後の統合は決定していたものの、仮にどちらかの病院がそれまでに閉鎖することになれば、新病院構想は瓦解(がかい)したことでしょう。

 豊橋病院では「這ってでも統合までたどりつこう」を合言葉にしました。職員全体で話し合って、受け入れが十分ではなかった救急患者を積極的に受け入れることにしました。当直医は1人ですが、電話1本でかけつける応援体制を組み、救急隊を訪問して患者搬送を依頼しました。救急患者を積極的に受け入れて、経営悪化に歯止めをかけ、2つの病院の統合は実現しました。

◆黒字化に向けて

 新病院設立のための巨額の借入金は負担が重く、病院の知名度が低かったためか、開院当初入院患者数は伸び悩み、赤字経営が続きました。

 そこで地元医師会への広報活動を精力的に行い、診療所の先生方との病診連携を緊密にしました。救急隊や地元の企業巡り、新聞社などのメディアへの広報、地元住民との懇談なども繰り返しました。周辺自治体の首長とも面会し、市民向け広報活動を展開しました。

は、当院に近い静岡県湖西市に出向いて診療所回りをしました。市長と面談し、当院の手厚い診療内容と湖西市の救急搬送受け入れ先の主な医療機関であることなどを説明しました。その結果、診療担当医表を市役所の窓口に置いてもらえることになり湖西市からの患者さんはさらに増加しました。

 努力のかいがあり経営は大きく好転して、2009年から2014年まで経常収支は黒字が続いています。

◆充実した医療環境

 リニアック放射線治療装置をはじめとする多くの最新鋭医療機器が稼働し、がんや外傷、脳梗塞や循環器疾患に対するカテーテル治療などの急性期医療が当院の得意分野です。

 一方、緩和ケア病棟へのニーズも非常に高く、今年3月に従来の24床から48床へと増床しました。全国でも屈指の規模となり、いつも満床状態です。また、国のセーフティネットとして40床の重症心身障害者病棟も備えています。

 当院は「断らない救急」を掲げています。重症で結果が思わしくないと医療訴訟に発展しかねないケースもありますが、それを恐れる余り、いざ困ったときに診てくれない病院など存在意義はないのです。そのうち地域住民にそっぽを向かれてしまうでしょう。当直医は3人体制ですが、救急車受け入れは毎月約300台、今年はおそらく年3千台に達すると予想しています。私も微力ながら当直に入っています。当院職員は、みな本当に一生懸命にやってくれています。

 救急車の豊橋市内医療機関への搬送完結率は99%以上と驚異的です。豊橋市は救急車の受け入れもスムーズだし、末期がんになっても緩和ケア病棟がある。住民にとっては安心して暮らせる医療環境と言えるのではないでしょうか。

◆患者さんに納得してもらえる医療を

 7対1看護体制やDPCなどの医療制度をとる病院では、一般に非常に短期間での退院を促すとされています。でもこれでは治療を早く終えて自宅へ帰りたい患者さんは別にして、まだ十分治っていないと感じる場合や、納得してから退院したいと思う患者さんにとっては不満が残る結果になります。再入院率が高い、治癒率が低下したとするデータも報告されています。

 当院では「心のこもった医療」を目指しています。開院以来10対1看護体制、出来高払い制度を採用しており、担当する医師も患者さんも互いが納得できる入院期間内に、必要と考える検査や治療を落ち着いて施し受けることができます。

◆社会問題化している老々介護

 60歳代の夫婦の話です。車いすのパーキンソン病の奥さんの介護を15年間続けてきたという夫が、疲れ果てた顔で「精神的にも肉体的にも限界で、もう心中するしかない。少しの間でいいから妻を預かってくれないか」と年末の時間外に救急外来を訪れました。少し熱があったので入院していただきました。

 そして年明けに迎えた退院の日。夫は別人のように晴れ晴れとした表情で「先生、また介護を頑張れます」と言って妻を連れて帰りました。しばらく介護を忘れることができ心身ともにリフレッシュできたようですね。この出来事は今でも強く印象に残っています。

◆最善の治療を

 若い医師にはいつも自らを他に置き換えることのできる人になって欲しいと思っています。ヒポクラテスの誓いに「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない」との記述があります。なによりも患者さんのため自分が思う最善の治療を施すのが医の原点なのです。

 名前を売りたい、新しい技術に挑戦したいなどの邪心があっては道を誤ります。自らを他に置き換えること、つまり自分が治療を受けるとしたら、また家族や親しい友人の治療をすると考えるなら、おのずと治療法は決まるはずです。

◆深刻な病院間格差

 今、医療界で大きな問題は都市と地方、大病院と中小病院間の医師の偏在です。さまざまな施設基準や新臨床研修制度によって一極集中が進み、医師の偏在が加速する結果となりました。

 地域の中小病院は医師不足に悩み、地域医療は崩壊する危険性があります。自治体の壁、大学医局の壁といった難しい問題はありますが、大規模施設とこれら中小病院との人事交流による医師派遣があれば地域医療はその機能を維持できるものと考えています。


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