精神科救急医療を支える、瀬野川病院の挑戦
いつでも、どこでも、だれでも
つくえ・りょうたろう ▶私立 修道高等学校 卒業、東北大学医学部 卒業
■生活訓練施設や就労支援施設、病院が用意したアパートなど、精神科の治療や社会復帰訓練において必要な「資源」がほとんどそろっています。
下原理事長(以下、下原)=父でもある前理事長の時代に作った施設が多いのですが、設立した時に父が持っていた「障がい者の社会復帰にむけた情熱」は、引き継いでいきたいと思います。
3年前から理事長を務めており、それまでは心理療法士として仕事をしていました。施設勤務になったのを機に精神保健福祉士資格も取得して、患者さんの社会復帰に携わっています。
退院された方を施設で見守り、少しずつステップアップできるように生活のサポートしていますが、再発される方もいるため、精神障がい者の社会復帰の難しさを実感しています。
患者さんに病気を理解してもらって、服薬の大切さをに受け入れてもらうにはどうしたらいいのか、細かいことから大きな問題まで、これまでに学んだことは大きかったと思います。
■治療の方針をお聞かせください。
津久江院長(以下、津久江)=これまでの精神科医療では、基本的に精神症状である幻覚、妄想、気持ちの落ち込みなどを薬で改善して良しとする考えが支配的でした。「症状が良くなればそれでよい。それ以上のことはあまり無理をせず、難しければあきらめる」という考え方ですね。しかし、精神疾患についてよくわかっていない点も多いですし、患者さんの回復の可能性を引き出す環境を準備することは大切だと思います。
■精神障がい者との共生を阻むものがありますか。
下原=ひとつではないと思います。まずは社会からの偏見があるでしょう。医療の現場ですら、他科の医師からも偏見を持たれることもありますし、障がい者自身も自分で偏見を持ってしまっていることがあります。
仕事を始めることも社会復帰ですが、こういった社会環境においては、自宅に帰ることだけでも社会復帰なのだと思います。たとえば、統合失調症のことを家族や隣人、友人に知ってもらって、再発の可能性も伝えたうえで病院同行などをしてもらうと、生活のしやすさはまったく違います。
すべての人が偏見を持っているわけではありません。自分たちで限界を作っていることもあるので、それを解消することが必要ではないでしょうか。
津久江=精神疾患は「見えない」病気です。それゆえ病気の症状を理解し難い現象ととらえ、身構えてしまうことはあるかもしれませんね。
■これからの瀬野川病院について。
下原=私たちは未来にむけた「夢・未来図」を作りました。少しずつ実現して、残すは介護付住宅だけになりました。
入居施設の高齢化が進んでいますので、人生の最後まで病院周辺で生活できるような施設を作っていきたいと思います。
あとは、すでに実現しているものを成長させなければなりません。救急機能はもちろんですが、当院の核になっている依存症治療や司法精神医療などですね。
デイケア施設についても、リハビリを充実させるためのプログラム作りをスタッフに検討してもらっています。
今後は、たとえば「ノイエ」が何年か経ったあと、お客さんに「このお店って、元は病院がやっていたらしいよ」と言われるような自立した経営状態にまで成長するとうれしいですね。高品質なサービスを提供して社会に貢献できるようになるのが理想です。