鹿児島大学大学院 消化器・乳腺甲状腺外科学 夏越 祥次 教授

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患者さんに救いの手を差し伸べられる外科医を育てたい

なつごえ・しょうじ 1981広島大学医学部を卒業し、同年鹿児島大学医学部第1外科入局 1996ドイツ・ミュンヘン工科大学留学 1999鹿児島大学医学部第1外科講師 2004鹿児島大学医歯学総合研究科 腫瘍制御学・消化器外科学准教授 2009鹿児島大学医歯学総合研究科消化器・乳腺甲状腺外科学教授

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学会で地方に行ったときに飲む地酒が楽しみだと語る夏越 祥次 教授。

◆外科医不足解消のために

 高校時代、理系の学部に進むか、文系の学部に進むかで悩んだ時期があります。最終的に医学部に進もうと決意したのは以前から救急医療に興味があったからです。そのころから、病気やけがで苦しんでいる人を助けたいとの思いが強かったのでしょう。

 しかし、当時の大学病院には救急部がなかったため、全身を診ることのできる科へと考えました。外科、内科で結局、外科に進んだのは、自分の技術次第で患者さんを救うことができると思ったからでした。術前・術後、そしてその後の経過を通じて患者さんを見ることができるのは大変勉強になり、素晴らしいことです。

 学生さんが進路を選択する時は、自分が一番やりたいと思う科に進んでもらいたいですね。周囲から評判などを聞くこともあるかもしれません。もちろん各科が持つイメージも進路選択の重要な要素でしょう。しかしそれよりも、自分が一生涯をかけて打ち込める仕事は何かを基準にして選ぶことが大切ではないでしょうか。

 外科は、しんどそうだと思っている人が多くいます。急患が来ると定時に帰れない、休日も出勤しなければならないことがあるなど、ネガティブなイメージが付きまとっていて、近年は外科医が不足しています。

 今年、日本消化器外科学会では、学生・研修医のみなさんに消化器外科の魅力をアピールする必要があると考え、私が実行委員長を拝命し、9月5日、6日の2日間、熱海で「Japanese skilleducation for younggastroenterologicalsurgeons(JESUS=ジーザス)」を開きました。

 JESUS(ジーザス)とはイエス・キリストの「イエス」を英語で発音した単語です。各種消化器がんや、穿孔、出血など消化器救急疾患の患者さんが「神様、助けてください」という状況になった時に救いの手を差し伸べることができるような外科医になってほしいとの願いを込めました。講習の参加者は男性82人、女性18人の合計100人。22人の講師の先生方に協力していただきました。

 講習初日は、腸管吻合、トレーニングボックスを用いた縫合結紮(けっさつ)、シミュレーターを用いた手術手技、セミナーなどを行いました。夕食は和気あいあいとした雰囲気で、講師陣が参加者に外科の魅力や外科医の将来像などを伝えるなど、夜遅くまで語り合っていました。

 2日目はトレーニングボックスを用いた結紮のコンテストが行われました。決勝に進んだ参加者の結紮の速さには、講師陣も驚いていました。終了後のアンケートでは参加者のほとんどが外科に興味を持ってくれました。この中から少しでも多く外科を選択してくれる人が増えると幸いですね。

 外科に興味がある人はぜひ、この世界に飛びこんできてください。当教室はもちろん、ほかの大学や研修病院も全面的にあなたをバックアップしてくれるはずです。

◆新たな取り組みの検討を

 外科が面白いと言ってくれる研修医はたくさんいます。しかし、研修を受けていくうちに志望者が急激に減っていくのは事実です。ほかの科は定時に帰宅できて、プライベートに割く時間が確保できるのだと気付き、そちらに魅力を感じてしまうのでしょうね。たしかに外科は急患で夜中に出勤したり、残業したりして、プライベートが犠牲になってしまう面があります。

 私が若いころの医療界では、医師がお金のことを言うのは不謹慎だとの考えが根付いていました。しかし現在は、スポーツ選手をはじめ日本社会全体に、仕事量に見合った報酬を受けるのが当然だという考えが広まってきています。

 医師も時間外の手術や、残業をした医師には、それに見合った報酬を与えるといった取り組みを検討する時期がきているのかもしれません。

 若い人の中には、給料が同額なら楽なほうがいいと考える人が少なからず存在します。学生に「外科の給料がほかの科の3倍だったどうしますか」と問うと「それなら外科にいきます」と言った人がけっこういるんですよ。

◆いい部分だけを見習ってほしい

 一昔前の外科は先輩の言うことに絶対服従で、丁稚(でっち)奉公的な雰囲気が色濃く残っていました。

 私は、先輩のいい部分は吸収していましたが、間違ったことをしていると反発はしないまでも反面教師にして、自分が上に立った時には下の人間にこんな思いはさせないぞと常に思っていました。

 若い人には「いろいろな先輩がいると思うが、すべてが正しいわけではない、手術にしろ、生き方にしろ、考え方にしろ、良いところだけを見るようにしなさい」と言っていますね。そして悪い部分はまねをしないようにとも言っています。

◆教室の五訓

 当教室には5つの教訓があります。まず1つ目は「人格を磨く」。すなわち、医師である前に人間であれということで、どのような職業にも当てはまります。人としてどう生きるか、まずは人格を磨かなければなりません。

 われわれ医師は、弱い立場の人(患者さん)が相手なので、知らず知らずのうちに上から目線になってしまうことがあります。ところが患者さんは自分が弱い立場だと自覚して、我慢をされます。

 たとえば自分の孫くらいの年齢の医師に敬意を払われなかったら、その患者さんはどう感じるでしょう。常に相手の目線に立った言動をとらなければなりません。医師と患者さんのトラブルは往々にしてそういったところから起こるのだと思います。

 2つ目めに「医道を極める」。これは生涯勉強し続けねばならないという意味です。

 医師は成長する努力を怠ってはなりません。40 歳で勉強をやめてしまった人は、そこまでの知識で患者さんを診ることになり、いい医療を提供できません。

 自分が志した道を究めるには一生勉強が必要です。外科医は、総合的な力を持つと同時に、プロフェッショナルな仕事を目指すべきです。

 3つ目は「社会に貢献する」。当たり前のことで、医師としてはすでに社会に貢献していますが、さらに利他の心をもって社会に貢献することが大事です。

 やることはボランティアでも、教育活動でも良いと思います。自分さえよければという考えを捨て、社会全体に貢献していってほしいですね。

 医療界の中だけにとどまっていてはいけません。もう一歩踏み出す勇気が必要です。

 4つ目は「後進を育成する」です。外科は技術の世界です。私が若いころはとにかく、「技術は見て覚えろ」と言われたものです。先輩が手術しているのを後ろから見て、それから何年もたって、やっとメスを握らせてもらえる時代でした。

 今はモニターで手術の様子が見られます。常に術者の目線で手術について学べ、恵まれた時代です。先輩医師は自分が経験あるいは取得した技術や才能を次世代に継承することが重要な責務であると思います。

 最後に「組織力を高める」。われわれは教室員をしっかりと一人前の外科医に育て上げたいとの思いがあります。さらに地方から情報発信していくためには組織が一体となって取り組んでいく必要があります。

 「人は城、人は石垣」といいます。人こそ宝です。われわれは若い医師を組織全体で育てていかなければならないと考えています。


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