率先、特化、集中で救急医療を担う
熊本県内に3つある救命救急センター。そのうちのひとつ、済生会熊本病院(熊本市)の救命救急センター長、前原潤一・救急総合診療センター救急科部長に、県内での役割や特徴を聞いた。
―県内での役割は。
熊本は当病院と熊本赤十字病院、国立病院機構熊本医療センターの3救命救急センターがすべて熊本市内にあるというのが、全国と比べて違うところだと思います。
3つが切磋琢磨しながらやっていますが、元来、それぞれの救命救急センターが地域による棲(す)み分けが自然と出来ており競合することが少なく、県全体として相互補完的にうまく運用出来ているところが熊本の特徴だと思います。当院は、熊本市南部と県南部の救急が主な担当エリアです。
―救命救急センター指定の経緯は。
当院は救急医療に力を入れてきた歴史があり、救急車の受入台数が県内でもっとも多い時もありました。私も1999年の入職時から、救命救急センターの指定を受けたいと思ってきました。ただ当院は総合病院ではありません。主に三大疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞)など需要の多い疾患や緊急度の高い重症疾患に特化しており、救急で受け入れなどの問題が指摘されていた小児科、産婦人科、精神科などがありませんでした。それがネックとなってなかなか県の指定が受けられない状況だったのです。
しかし国が「救急医療のシステムの構築は、地域特性を考慮して行うべき」との方針を出して、風向きが変わりました。それまで、救急医療の実績は長年積んできておりましたし、対象とする疾患群に対しては、他の施設に引けをとらないskill、power、speed、加えてsafety に注力し評価を受けておりましたので、2010年、熊本県から念願の救命救急センターの指定を受けることができました。
―2010年には「救急総合診療センター」も立ち上げたと聞きました。
救命救急センターの指定を受ける半年ほど前からスタートをしています。
救急患者の中には、すぐに診断がつかない人、ひとつの科に割り振れない人がいます。そのため、外科系の「救急科」と、呼吸器・消化器・循環器などの内科系専門医をそろえた「総合診療科」が一緒に診療したり、カンファレンスを行ったりすることにより、短時間で確実な診断や治療を進めていくセンターを創設したのです。
今は、名前や体制も同様の形を採っている施設が増えていますが、当センターがその走りだと自負しております。
当院は各科がセンター化して内科系・外科系が共同で診療を行い、さまざまな先進的技術や機器を積極的に導入したり、クリティカルパスなども全国に先駆けて導入したりと、フロンティア志向が強く、率先して新しいものを取り入れるのが強みであり特長です。また、必要性を入念に検討し、決定すれば人・モノに投資をスピーディーに行うという点も特徴的です。
―今後の課題は。
やはり、人の確保、充実というのは頭の痛いところですね。対外的な学会発表や論文発表という広報活動、そして教育は特に力を入れないといけない部分です。
私が最近、よく言うのは「事業継続性」。新陳代謝をはかりながら、いついかなるときにも事業を継続できる組織を作ることがすごく大事だということです。私も居場所、やるべきことを徐々に若手スタッフに移譲しながら、この救急医療を継続し、向上していく体制を常時作っていかなければならないと思っています。これは言うは易く、しかしなかなか大変ですね。
また、長く掲げてきた「断らない救急」も一考する時期に来ていると感じています。
病院前救護におけるトリアージとして3R(適切な患者を、適切な時間内に、適切な場所へ)があります。高齢社会となり、多疾病で重症な患者の受け入れがさらに増加します。軽症の方は一次救急医療機関等にお願いし、重篤な患者に、限られた医療資源を集中すべきだと思います。
―若いスタッフに助言を。
医師としての初期に、救急を含めた総合診療的な訓練・経験を積むことが、長い目で見ると必ずプラスになると思います。医師人生は数十年と長いです。最初から絞りすぎると、狭い視野でしか物事をとらえられなくなり、結局自分の成長を限定してしまう結果になるのではないでしょうか。「人生、急がば回れ!」です。