ホスピタリティー溢れる医療と介護、心のケア
―病院創設のきっかけを教えてください。
曽根理事長(以降:曽)広島大学で精神科・心療内科を学び、卒業以来ずっと地元で医療に携わってきました。病院創設のきっかけとなったのは、以前勤めていた病院が併設で造った介護老人保健施設です。いわゆる慢性期の高齢者やハンディキャップのある方のためのケア施設で、車いすでもすれ違いができるように、広々としたスペースが設けられていました。
こういう雰囲気の施設であれば入院生活も快適ですし、高齢化が進むこの地域にはなじみやすいのではないか、と考えていたところ、初代会長の久保明氏と出会い、共同で病院を造ることを計画しました。そして、1994年、広島県下では初の療養型病床群としてスタートしました。
―病院の特徴について。
曽:廿日市市内には急性期医療を活発にされているJA広島総合病院があり、県境の大竹市には広島西医療センターがあります。当院は、そのちょうど間に位置します。急性期病院での入院期間が短縮されてきている時代背景から、退院後すぐに在宅へ移行することは難しいのではないかという思いがありました。
そこで、ポストアキュート(急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態)にあたる患者さんのために、医療、看護、介護、リハビリ、そして心のケアのすべてをまとめて行うことにしました。診療においては、気配り、心配り、心地よい環境づくりを心がけています。
日下事務長(以降:日)13年前、当院にはセラピストが3人しかいませんでした。そこで、リハビリの中でも「摂食(食べること)」について特色を出そうということになり、特にST(言語聴覚士)を増やしました。現在、セラピストの数は40人弱。中でもSTは120病床に対して9人と多い方だと思います。
STが多いので小児外来(発達障害の患者さん)も遠方から来られています。そのほかにも、口腔ケアマスターという院内独自の認定資格者を設置し、口腔ケアに法人全体で取り組んでいます。
また、患者さんに、よりおいしく食べていただけるように、食べる訓練から食べる内容、栄養価に至るまで、医師が指示を出し、視覚的にも食欲をそそるような食事をご用意しています。
そうした実績を積み重ねてきた結果、周辺地域では、「食べる=大野浦」という認識が広がってきているのを感じます。かつては近隣の患者さんがほとんどでしたが、現在は東西30kmくらい離れているところにお住まいの患者さんも入院されるようになりました。
くわえて、通院が困難な方のために、10月から訪問診療を開始しました。まずは、理事長と副院長の2人で始め、今後は少しずつ対応できる医師を増やしていきたいですね。
―患者さんを診るときに心がけていることは。
曽:まずはじっくり話を聞いてさしあげることです。それは患者さんの場合もあるし、ご家族の場合もあります。難しい言葉や専門用語をなるべく使わず、わかりやすく説明するよう心がけています。また、訪問診療を始めたので、これからは病院では見ることがなかった患者さんの表情や雰囲気の変化も見落とさないようにしていきたいと思います。
―現在建設中の「さくらす大野」はどういう施設になりますか。
日:12月の第一週に竣工(しゅんこう)予定のサービス付高齢者向け住宅です。入居いただけるのは12月中旬ごろからになります。2人部屋もあり、ハード面も、じゅうぶん考慮して造りました。壁の建築基準が75mmのところ、125mmのものを採用して、遮音性に配慮しています。コストはかかかりましたが、理事長の考えで、「安心・安全」を第一に心がけました。
入居者の皆さまには夜間も安心して暮らしていただくために、施設内には看護師が24時間常駐します。医療法人が運営するサ高住であっても、これは珍しいようです。
また、食事については完全に手づくりで、地元の食材(主に野菜)を使って調理します。職員は大変だと思いますが、当院の食事は評判が良いので、こちらも力を入れていきます。
―基本理念の「ホスピタリティー」ですね。
曽:ホスピタリティーは特別なことではありません。当たり前といえば当たり前のことです。目に見えないことだから、手を抜こうと思えば抜けるし、とことん追求しようとすれば終わりがない。難しいことかもしれませんが、私たちは「地域一番」を目指しています。それはこれまでも、これからも変わりません。
現在、当院には接遇マスターが10人ほどいて、職員の手本になってもらっています。すべての患者さんが「ここを受診して良かった」と思っていただけるよう力を尽くしたいと思います。
日:患者さんの在宅復帰もわれわれの使命であり、自宅に戻られた後に、再入院をいかに防ぐかが重要です。セラピストは退院後に患者さんを訪ねてご自宅の環境をチェックします。遠方へも出向いて、みんなが汗をかきながらも頑張っています。
―今後の展望について。
曽:このあたりは漁港ということもあり、高齢者が多い地域です。まだまだ手探りではありますが、サ高住を中心に、今後はますます医療連携のとれた地域づくり、いろいろなものがまとまったコミュニティーづくりに貢献していきたいと思っています。