「患者さんのための医療」を徹底して追求する
―地域での役割、求められている機能について。
当院のような180床規模の病院ですと、軽度の急性期から慢性期、在宅医療まで網羅する必要があります。そのなかで中心になるのは、短期間の入院が必要な急性期やリハビリテーションを中心とした回復期になります。したがって、一般病棟を45床、地域包括ケア病棟を45床、在宅復帰機能強化型の医療療養病棟を45床とし、各病棟で入院早期から在宅復帰支援を行いながら病床運営を行っています。この地域には老健施設がないため、地域包括ケア病棟と医療療養病棟は、今後ますます重要性が高くなる病棟だと思っています。
外来医療についてですが、厚生労働省としては、200床以下の病院は、かかりつけ医と同じような外来医療を提供することを期待しているのでしょうが、当院は、この地域の中核的病院でもあるため、専門的な外来の強化もしていきたいと考えています。
24時間巡回型訪問看護・訪問リハビリテーションも行っています。これまでは医師会だけが実施していたのですが、訪問できる人数も限られてきますし、医師会ではかかりつけ医を持っていない患者さんへの対応ができなかったため、医師会とは競合しない範囲で2012年から訪問看護を実施しています。在宅療養支援病院としての使命だと思っています。
―在宅医療を支えるために、病院や施設がネットワークでつながる必要があります。
国は在宅医療を推進していますが、老老介護や独居老人の問題をどう解決するのかが見えていません。地域の介護力がない現状においては、在宅医療はそう簡単には進まないでしょう。多方面の緊密なサポートが必要ですし、空きベッドの有効利用など、新たな施策が必要ではないでしょうか。
当院では昨年、「まいづる連携」という医療・介護ネットワークを構築しました。ほかの施設との垣根をできるだけ取り払って「顔の見える関係」になることで、医療と介護の相互理解を深め、地域が抱える問題点を話し合っています。もっと緊密な連携を進めていきたいと思っています。
―井原市は広島県福山市という大きな都市と隣接しています。
井原市は岡山県と広島県のちょうど県境にあり、行政区は岡山ですが生活圏は広島県の福山になるという特殊な事情があります。医療圏は倉敷市を含む県南西部医療圏になりますが、生活圏は福山市にあるため、「医療だけは倉敷に行きなさい」と言われても、なかなか難しいのが実状です。
現在、総務省がモデル事業として実施している連携中枢都市圏という構想があります。広島県は福山市を中心とする備後圏域の都市構想を、岡山県は高梁川流域を構想圏として進めています。井原市は、両県構想のどちらでも対象になっているため両構想と協定を結んでいますが、教育、買い物などの日常生活や医療についても福山との結びつきが強いので、必然的に備後圏域広域医療圏構想の方にウエートを置いていくことになると思います。
具体的には、福山市民病院や福山医療センターのような高度急性期を担当する病院と、当院のように軽度急性期と回復期、慢性期を中心とする病院の連携を、より強固なものにしていかなければなりません。私の前任地が福山市民病院であったことや、距離的に近いということもあって福山市民病院との連携は図りやすい面があります。
実際に、福山市民病院から循環器内科と糖尿病内科の専門医師に外来診療援助に来てもらっています。県内の公的病院で連携することはありますが、県境を越えた公的病院の連携は珍しいと思います。こうした取り組みは、両病院と患者さんにとってwin-win-win(3者に利益がある)の状況を作り出すでしょう。
ただ単に紹介状のやりとりをするだけでは本質的な病院連携にはならないでしょう。これからは人事面でも密な交流が必要だと思います。医師はもちろん、看護部や医療技術部、事務部スタッフのすべての部署が実際に出向して交流すれば、お互いのレベルを向上させることができます。すぐに実現するのは難しいでしょうが、前段階として、たとえば研修会や講演会を共催することから始めては、と考えています。
―地域医療のあるべき姿について。
地域医療については、株式会社でいうホールディングカンパニーのような「地域医療連携推進法人」という仕組みづくりが進んでいます。極端に組織を変える必要はありませんが、ある程度、きちんとしたガバナンス(意思決定・合意形成システム)は必要になるでしょう。
たとえば、「このような状態の患者さんについては、基本的にこの治療でいきましょう」という方針や理念が組織全体で共有されていることは最低条件です。そのうえで、一定レベルの医療やケアを提供できるような病院・診療所群であるべきで、つまるところ、それはすべて患者さんのためにほかならないのです。