地域の「最後の砦病院」としての診療の充実と、実臨床に生かすことのできる研究の推進
―診療・研究内容についての概略。
これまでは光学医療診療部長として、消化器内視鏡診療を中心に行ってきました。内視鏡機器の目覚ましい進歩により、画像を強調するシステムや拡大内視鏡が登場し、3mmほどの平坦ながんの発見も可能になってきています。その診断方法の工夫や治療法の工夫にも取り組んできました。
早期の食道がん、胃がんや大腸の腫瘍について、治療内視鏡の技術も発展したため、これまで外科手術になっていたものも内科での内視鏡治療が可能になってきています。たとえば、内視鏡で患部を確認しながら周囲にマークをつけて、薬を入れて膨らませてから周りを切り取っていくやり方があります(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)。直径10cmほどの大きなものも切除することができます。ただし、早期がんでも粘膜内にとどまっているものに限られます。
内視鏡治療のメリットは、外科手術に比べて低侵襲でできるということです。すなわち、腹部を切ったり、胃を切除したりしなくてすむことです。また、合併症も低く抑えられます。最近では、胃壁の筋肉の部分から発生した腫瘍(消化管間質性腫瘍:GIST)などに対して、外科医による腹腔鏡処置と消化器内科医による内視鏡処置によるコラボレーション治療(腹腔鏡・内視鏡合同手術:LECS)や、耳鼻咽喉科との共同による下咽頭表在がんに対するESDなど、診療科の枠を越えた低侵襲治療にも取り組んでいます。
一方、研究面では、胃がんや胃潰瘍、リンパ腫、そして胃がんなどの原因になっているピロリ菌について、胃炎やリンパ腫との関係についても、細菌学教室や病理学教室との共同研究も含めて積極的に行っています。
また、若年者の除菌が胃がん発症予防に大きな効果をもたらすと考えられており、新入生のピロリ菌検診と除菌治療にも着手しています。
―今年の6月に消化器・肝臓内科学講座の教授に就任されました。
消化管、肝臓、胆膵領域についての診療、研究、教育を担当しています。現在、大学内に在籍している医局員は60人で、それぞれが消化管、肝・胆・膵疾患の治療と研究を行っています。他院での治療困難例や重篤な合併症をもった患者さんの紹介例が多いのが特徴です。特に、消化管がんに対する内視鏡的切除、胆・膵疾患に対する超音波内視鏡下処置などの内視鏡診療および、肝がんに対する肝動脈塞栓療法、エコー下ラジオ波焼灼療法など、観血的処置による先進医療を積極的に行っています。
一方、岡山県肝疾患診療連携拠点病院として、新規薬物治療はもちろんですが、肝炎相談窓口や無料肝炎ウイルスチェックなどの社会啓蒙活動も行っています。
さらに、炎症性腸疾患の難治例に対する各種薬物治療や、新薬が次々と登場して奏効率が著しく延びている消化器がんに対する抗がん剤治療にも、がん診療連携拠点病院として大きく関わっています。地域の「最後の砦病院」として、最高の医療が提供できるように、導いていきたいと思います。
中国・四国地方および兵庫県内に、あわせて20を超える関連病院があります。診療面での病病連携を行うと同時に、症例集積や前向き研究などの多施設共同で行う臨床研究を積極的に推し進めています。
基礎研究においては、臨床で生じた疑問を基礎研究で解決し、それを臨床研究で証明したうえで患者さんの診療に還元することが基本的なスタンスだと考えています。
当面の一番の問題は、卒後新臨床研修医制度が導入されてから、大学の医局に入局する若い医師が激減したことです。そのため、関連病院との円滑な人事交流ができていないのが現状です。
若い先生方に消化器内科学の魅力、大学の医局に属することの意義をぜひともよく知っていただき、ともに診療、研究を行っていく仲間を一人でも多く増やさなくてはいけないと考えています。
―研究者であり、教育者としても重責を担っていらっしゃいます。どのような医師を育てますか。
まず念頭にあるのは、全人的医療を提供できる医師を育てたいということです。病気だけを診る医師であってはならないし、専門が消化器だからといって「消化器しか診ない、診られない」という医師では困ります。
自身の専門はもちろんですが、内科領域の全体を診ることができて、なおかつ患者さん自身をきちんと理解して「人間を診る」ことができる医師を育てたい。
診療においても、単にガイドラインに即して治療するのみならず、文献検索などでよく調べ、考え、そして、まとめて学会や論文で発表するというリサーチマインドをもって取り組む姿勢を育みたいと考えます。
内科専門医制度が大きく変わろうとしています。新制度が始まれば、内科専門医の資格取得のハードルが今以上に高くなると考えられています。資格取得の条件として、呼吸器や消化器、神経領域などの内科70疾患群200例を担当しなければなりません。しかも、大学病院ですら年に何例あるかというような珍しい病気も受け持たなければならない。これをクリアするのは簡単ではありません。単一の臓器別内科だけのカリキュラムでは専門医を取得することは困難ですので、学内の内科各科と連携をとって協力します。さらに、関連病院も含めたカリキュラムを構築して内科を目指す方々が困らないようにサポートするプログラムを構築中です。
やるべき課題が山積していますが、診療、研究、そして教育、どれも手を抜かず、大学人としての責任を果たしていきたいと思います。