現行のカルテ開示制度について、まずは適用範囲の最も広い個人情報保護法上のものからみてきましょう。
同法第二五条一項は「個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない」と定めています。この「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいいます。
医師は、医師法上、診療録の作成及び保管を義務付けられており、医療機関は原則として「個人情報取扱事業者」に該当します。但し、他の個人情報保護法制が適用される国、地方公共団体、独立行政法人はこれに該当せず、また、その個人の数の合計が、過去六ヶ月以内のいずれの日においても5000を超えない小規模医療機関も個人情報取扱事業者から除かれています。
では、「保有個人データ」にはどのようなものが含まれるでしょうか。個人情報保護法第二条五項は、これを「個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データ」と定義していますが、わかりにくいですね。厚労省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱に関するガイドライン」は、医療機関における個人情報の例として、「診療録・処方箋・手術記録・助産録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真・紹介状・退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約、調剤録等」 と列挙しています。患者の客観的な身体の状況だけではなく、それに関する医師や看護師の評価も含みますし、他の医療機関から取得した情報も含みます。つまり、診療録その他患者の診療の過程で作成された記録一切と考えてください。
なお、法第二条五項は、これらの情報の内容を、医療機関が勝手に訂正したり追加したり削除したりする権限を持っているのだ等ということを意味するものではありません。これは、医療機関が管理している個人情報であるということをこのような文言で表現しているのであって、情報の訂正等がいかなる場合に行われるのか、その際にはどのような手続が必要かについては別段の定めがありますので念のため。
最後に、「政令で定める方法」について。同法施行令第六条が「法二五条一項で定める方法は、書面の交付による方法(開示の求めを行った者が同意した方法があるときは、当該方法)とする」と定めています。たまに、閲覧のみ認めて写しは交付しないという取り扱いをしている医療機関がありますが、 これは「政令で定める方法」とはいえず、法律上の開示義務を果たしたとはいえません。もちろん、ここでいう「書面」というのは、昔の日本医師会ガイドラインがカルテ開示の代替措置として認めていた「要約書」とは全く別です。「要約書」は、診療情報の一部を、医療機関側で選択して提供するものであり、「保有個人データ」の開示ではありません。
個人情報保護法は、そのデータが書面に記録されているものであればそのものの写しを、電子データとして保存されているものであれば、それを印刷したものを書面として交付することを求めているのです。
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