手術支援ロボット「ダヴィンチ」導入から1年
―昨年の9月に1例目を手がけられましたね。
これまで、40数件。当初は、1件1件の間隔を空け、安全性を検証しながらでしたが、現在は月に5件ほどのペースで実施しています。
当院で前立腺がんの手術をする患者さんは基本的にダヴィンチ手術。ただ、緑内障があったり、腹腔内の癒着が予想されたりする方は、腹腔鏡下の手術をしています。
―導入して改めて感じるメリットは。
術後の腹圧性尿失禁からの回復が早い、ということが患者さんにとって1番の利点でしょう。
ほとんどの患者さんで1年以内になくなる尿失禁ですが、退院時点で見ると、ダヴィンチ導入前は、たいていの患者さんにまだ残っていました。現在は退院時、半数ほどの方がほぼ回復しています。がんに対する根治性と機能の温存が両立しやすくなったということがもっとも大きなメリットだと思います。
―医療者にとってのメリットは何ですか。
座って手術できるので、疲れが少ないということ、さらには手ぶれがないというのがメリットです。長い鉗子を使うため、腹腔鏡手術ではどうしても先端がぶれてしまいます。ダヴィンチはそれがありませんので、より精密な手術が可能となります。
また、10倍に拡大された高精細な画像が見られるため、骨盤内の解剖を理解しやすいというのも、若い医療者にとってはいい点でしょう。
導入によって、泌尿器科に興味を持つ学生も増えてきていると感じます。学生はダヴィンチの操縦席に当たる「コンソール」に座って中をみると、非常に驚きますし、興味津々です。最先端に触れているという感動があるのでしょうね。
―今後については。
現在は私が執刀していますが、第二世代、第三世代の執刀医を増やしたいと思います。それによってロボット手術全体のレベルも上がりますし、たくさんの治療もできるようになると考えています。
―12月には「腎不全 その人にとって最適の治療とは」をテーマに九州人工透析研究会を開催されますね。
末期の腎不全患者は、年々増えています。「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」、この3つの腎代替療法について改めて考えたいと思っています。
―現在は、移植したいと考えた時、すぐにできる環境でしょうか。
ドナーの数が非常に少なく、移植を望んでも受けられない方が多いのが現状です。
長崎大学病院では腎移植が1965年から行われており、今年で50年。亡くなった方からの献腎移植を増やしたいと、臓器提供啓発にも力を入れてきました。現在、長崎は全国的にも提供者が多い県となっています。
―最近の教室の取り組みで特徴的なことを。
数年前から、外来化学療法前の血液検査をかかりつけ医で実施できるようにしました。
化学療法を続けていると、白血球が下がり、血液検査の結果次第では治療ができないこともあります。事前にかかりつけ医で検査することにより、治療不可の場合に、わざわざ大学病院まで足を運んでもらわなくて済むようになったのです。
また、治療ができる場合にも、従来なら採血から治療終了まで5時間かかっていましたが、今は3時間だけで済むようになりました。患者さんにも、付き添いのご家族にも喜んでいただけていると思います。
さらに今年、訪問薬剤師の役割などを紹介する独自のパンフレット「ご存じですか? 薬剤師の在宅訪問!」を制作しました。
泌尿器科は高齢の患者さんが多く、多種類の薬を服用している方も少なくないため、薬の適切な保管や使用が課題となっています。そこで、宮田康好准教授が中心となって、現状調査や、薬剤師、看護師、ケアマネジャーの方との勉強会に取り組んできました。
医師だけでなく、他職種の方とも連携しながら、高齢の患者さんに対応しています。