特定非営利活動法人岐阜県腎臓病協議会 大矢 正明 会長
―NPO法人岐阜県腎臓病協議会について聞かせてください
岐腎協ができたのは、1971(昭和46)年。以降、任意の患者団体として活動してきました。
昭和40年ごろというのは、透析の治療に月30〜40万円かかっていた時代。資産家や、田畑を売ってお金を得られる人は透析治療をしていましたが、それができない人は、死を選ぶしかありませんでした。透析が必要になった人の中には、親に迷惑をかけるからと言って、蒸発して行方不明になったり、結婚している人は離婚したり、そういう人もいた悲惨な時代だったそうです。
それではいけない、ということで、当時の患者や家族でつくる全国組織「全国腎臓病協議会」が必死に厚生省に掛け合い、自己負担を軽減してほしいと訴える運動を起こしました。透析をしないと、貧血になって、血圧も下がり、気分も悪くなったりする。ここの1代目から3代目ぐらいの会長さんたちも、本当に命がけで、東京に通われたんです。
今、私たちは、ほぼ無料で透析が受けられています。でも当時、治療費軽減のための運動をした方たちの多くは、その恩恵を受けずに亡くなっているんですよね。その歴史を、もっと知ってもらうべきだと思っています。
̶現在の会の活動は。
現在、岐腎協の会員は2750人ほど。岐阜県の透析患者が約4800人で、組織率は57%です。これは、ありがたいことに、全国でもっとも高いんですよ。
今、岐阜県内の透析治療は、実質的には患者負担ゼロというありがたい状況ですが、これは患者会という組織が、国や県といった行政と話し合い得てきた宝物のようなものです。これを守っていくためには、会が存続しなければならない。実際に今、全国的には自己負担が入っている都道府県が29あるんです。
患者会があることで、他の施設の患者さんと話ができるという点も、メリットだと思いますね。会員アンケートをとって、あるいは意見箱、投書箱をつくって、悩みや不満を聞き、「確かにその通りだな」という意見の場合は、患者会として施設などに話をして、改善してもらうようにもしています。
そのほか、地域腎友会の役員を中心にした学習会と、各患者会の役員の研修会を隔年でしています。患者会は病院ごと、腎友会は地域ごとにある患者会です。
―理事長就任の経緯は。
50歳で透析をはじめ、すぐに患者会に入りました。もともとジャーナリスト志望で高校時代は新聞部だったり、高校教諭を長年する中で文芸部の顧問をしたりしていたということで、退職後に「文章を書けるから手伝いに来てくれんか」と言われて、事務局長と広報を4年ほど兼務しました。
その後、副会長をし、前会長が亡くなられた後に会長代行、そして去年の4月から会長をしています。
̶会としての今後は。
透析患者が増えないように、啓発活動をしていきたいと思っています。以前は、「自分たちの命と暮らしを守る」がメインでしたが、今は、その上で社会に貢献できる団体になろうと「腎臓病の予防および治療に関する知識の普及と啓発活動」と「臓器移植の普及・推進」に力を入れています。県内30カ所以上の健康まつりや福祉フェスティバルなどに出向いているんです。
県や市が主催する講演会に、私たちは透析の体験者として話しにいっています。私自身も、毎年岐阜県立看護大学に行き、看護職を目指す学生に、患者への接し方や見方などを話しています。また、管理栄養士になるための大学でも話をしています。そうすることで、患者会というのは、単に要望を言うだけの会ではなく、安心安全な医療で治療してほしいという願いを持っている会だということを理解してもらえたらとも思っています。
医療は医者だけでは成り立たない。患者がいて、双方が作用しながら医療というのは成り立つんだ、とある医師から聞きました。その通りだと思います。お医者さんと話していても、お医者さんが患者会の存在を無視せずに、医療に携わってくださっていると感じます。本当にありがたいですね。医師は安心安全な医療を与えたいと思っているし、私たちも安心安全な医療を施してほしいと思っている。願いは一緒だと思うんです。ですから、敵対するようになっては絶対いけないと思います。