医療と法律問題|九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

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 ここ三回ほど、医療に直接的に関係しない安保法制のことを書いてきましたが、そうしているうちに季節が変わり、10月1日には、改正医療法に基づく医療事故調査制度が発足しました。

 この連載でも指摘したとおり、この制度に関してはさまざまな問題が未解決のまま残されており、不安を感じている医療関係者も少なくないと思います。しかし、この制度がほんとうに医療事故の再発防止のために機能すれば、医療の安全性が高まり、市民の医療に対する信頼が回復することが期待できます。それを適切に機能させる鍵は、医療関係者、特に、医療事故として調査対象にするかどうかを判断する医療施設の管理者が握っています。私たち法律家も、制度の運用状況を重大な関心を持って見守りたいと思います。ある程度、運用が固まり、調査事例が重なってきた頃には、この連載もまたこの問題に戻ってくることになるかもしれません。

 さて、医療をめぐる法律問題は、これまでさまざまな変化を経てきましたが、この医療事故調査制度以前の大きな変化として、カルテ開示の問題がありました。

 わたしが弁護士になった平成元年当時には、患者は自分のカルテを見ることができないのが普通で、敢えて見るためには、裁判所を通じての証拠保全という手続を採る必要がありました。この状況に変化が見られたのは、一九九九年のことでした。奇しくも、医療安全が政策課題化するきっかけとなった横浜市立大学の患者取り違え事故及び都立広尾病院の消毒薬誤点滴事故が起こった年です。前年の1998年、厚生省「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」は、「カルテは患者の求めに応じて開示されるべきもの」とし、医療記録開示法制化の提言まで含んだ報告を行い、これを受けて、日本医師会は99年1月に「診療情報の適切な提供を実践するための指針について」を公表しました。この指針は、診療録そのものの開示に代えて要約書の交付という手段を認める、紛争を前提とする場合を適用外とするといった限界を有していたものの、カルテ開示を原則として認めたという点で、日本の医療におけるカルテの取り扱い方を大きく転換させるものでした。その後、2003年5月の個人情報保護法成立及び厚労省通知「診療情報の提供等に関する指針」、2005年4月の個人情報保護法完全施行により、カルテ開示は法的な制度として確立しました。

 しかし、昨年12月から今年1月にかけて、「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」が実施した調査によれば、医療機関に入院あるいは通院した患者のうち、医療機関のカルテ開示義務を知っているのは57.8%であり、四割以上の患者が知りませんでした。

 これを多いと受けとめるか少ないと考えるかは様々かもしれませんが、思えば、医療機関の中にも、カルテ開示制度を理解していない向きがあります。医療事故調査のためにカルテ開示を求めたところ、個人情報保護法が施行されてずいぶん経った時期なのに、日本医師会の旧指針をタテにして「紛争を前提としたカルテ開示はできない」と返事してきた病院もありました。

 次回からしばらく、このカルテ開示制度の現状について見ていきたいと思います。

 ■九州合同法律事務所=福岡市東区馬出1丁目10-2 メディカルセンタービル九大病院前6階TEL:092-641-2007


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