社会医療法人 光生病院 佐能 量雄 理事長 兼 院長
■たったひとりの生還
軍医だった私の父親は第2次大戦でもっとも悲惨だったフィリピンの戦場から、部隊のたったひとりの生き残りとして帰国しました。だから、亡くなった戦友に代わって社会の役に立ちたい、困っている人たちを助けたいという思いが大きかったようです。夜でも厭わずに救急医療を提供する、地域社会に貢献するというのがこの病院の原点です。
理念である慈愛と奉仕の具体化として、地域医療を充実させることを第一に考えています。幸いにも、高度先進医療を実践する岡山大学が近くにありますので、大学から約80人の医師に、当直や外来のパートタイムに来ていただいています。
■地域を支える医療
(※)地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律=地域における効率的、効果的な医療提供体制の確保や地域包括ケアシステム構築のために、医療法や介護保険法など関係法令をとりまとめたもの。
昨年の6月25日に、医療・介護総合確保推進法(※)が公布・施行されました。この法律の与える影響は非常に大きいでしょう。
日本の人口はこれから目に見えて減少していきます。2040年には自治体の数が半減し、2100年には人口が6,500万人台にまで減るとみられています。
では、この人口減少社会で地域を支える医療はどうあるべきなのか。少なくとも、医療と介護を安定して提供できる自治体でないと高齢化社会が維持できないでしょう。治療から支える医療に方向転換する必要があります。
当院では2年前に大きくかじをきりました。患者さんをたらいまわしにしない総合診療病院を目指しつつ、「地域で支える医療」への転換も意識的に行いました。
具体的には、患者さんのくらし、生活、住居までを支える医療の提供であり、訪問ヘルパー、訪問看護、訪問リハビリの実施です。往診は開業医の先生にお願いしていますが、往診できない場合は我々が担当します。
ハード面では、人口減少・高齢化社会で必要となる医療を実現するために、新館1階は地域包括ケアシステムに対応しています。そのほか、居宅支援事業所やヘルパーステーション、ケアマネジャー、訪問看護、訪問リハビリ、など、在宅医療、介護に必要なものはすべてそろっています。
新館2階には透析センターも備えていますので、介護が必要になった場合でも、上層階に造った「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)に住んで透析に通うことができます。
新館の6階から8階にはショートステイや地域密着型の特別養護老人ホームを用意しました。2階にあるリハビリセンターでは、リンパ浮腫の特殊なリンパマッサージやパーキンソン病のリハビリ、あるいはスポーツ選手むけなどの専門的なリハビリも可能です。
■多職種連携の医療
医療と介護を考えるときには、医学的なエビデンスを最優先しなければなりません。株式会社にして利益を追求するのではなく、医師や看護師などのメディカルな人材の能力を担保することが大切だと思います。
住居の段差を解消したり、認知の相談をうけるなど、高齢者医療においては多職種連携がとても重要になります。そこで、昨年から本格的な多職種連携を実施しています。
かつては、医師だけが白衣を着て絶対的な権力を持っていましたが、現在はほぼ平等なラインを敷いており、ケアマネや介護福祉士、OT・PT、薬剤師などがそれぞれの役割で責任感を持って働いています。ユニフォームも色違いで同じ形のものをそろえました。
当院には、確かな医療と介護技術を安価に提供するノウハウがあります。さらに、医学のエビデンスに基づいた多職種連携の医療を、今後も充実させていきます。