独立行政法人 労働者健康福祉機構吉備高原医療リハビリテーションセンター 徳弘昭博 院長
車イスの元プロレスラーがリハビリのために使っているサンドバッグ。体力維持のために頭突きを繰り返している。
主に上肢に不自由がある方のために開発されたパソコン用製品。マウスの代わりにあごでポインターを動かす。
社会復帰を目指して
当センターは、隣接する職業リハビリテーションセンターと協働して、早期の職業復帰をサポートします。障がい者だからといって家に引きこもる時代ではないのです。障がいの程度に応じて、可能な限り自立することで社会性を持っていただこうと、希望される方には社会復帰のお手伝いをします。
目的に沿ったリハビリ
当センターは95.4%という高い社会復帰率を実現しています。
高復帰率の要因はしっかりしたリハビリテーションシステムが確立されていることです。
最初に患者さんの身体的、社会的、精神的評価をしっかりと行い、インフォームドコンセントにしたがってリハビリをスタートします。特長的なのは、理学療法や作業療法、言語聴覚療法だけではなく、社会復帰に何が必要なのか、包括的・具体的に方針を立て、診療報酬に反映しないアプローチも積極的に行うということです。
たとえば、自動車免許が必要なのであれば、免許試験場にMSW(医療ソーシャルワーカー)が同行して免許取得をサポートします。また、脊髄損傷は合併症を起こしやすいため、患者さん向けに合併症予防の自己管理教育も行っています。
車イスでADL(日常生活動作)が自立したとしても、すぐに社会生活に移行することはできません。家屋改造の指導を行ったり、社会的なリハビリへの接続など、患者さんが希望する生活の形を実現するために、具体的・専門的な支援の形を考えることになります。車イスや寝たきりの方は、IT環境を駆使することでコミュニケーションが容易になり、SOHO(在宅ワーク)も可能になりますので、あごでマウスを動かす機器なども独自開発して社会復帰をサポートしています。
リハビリテーション計画作成については、スタッフミーティングを行います。復学なら学校、職業復帰であれば職場の方に来ていただいて共有のゴールを設定し、「それを実現するために何をすべきか」というカンファレンスを行うことがリハビリテーションのコアになる部分ですね。
ヒーローは患者さん
イスラエルのReWalkRobotics 社が開発した歩行アシストスーツ「ReWalk /リウォーク」。主に脊髄損傷患者の歩行再建を助ける。日本製のロボットスーツと異なり、装着者の重心位置変化を検出してスムーズな歩行を可能にする
センターのスタッフに大事にしてほしいのは、イマジネーション(想像力)とエンパシー(共感)を持って患者さんと向き合うということです。同情ではなく、何を望んでいるのかを感じ取る姿勢ですね。
「神の手」がいる外科などと違って、リハビリテーションは医療者側にヒーローがいません。医療者の人間性すら問われる場合もある、総合力でお手伝いをする医療です。当センターはスタッフの意識が非常に高く、たとえば重度の患者さんが紹介されたときでも、「やれるだろうか」ではなく、「ここでなければできないでしょう」と言ってくれる看護師やセラピストがいます。
見学にいらっしゃった方に、「リハの概念が変わりました」とおっしゃっていただくこともありました。今後も、患者さんとスタッフがともに歩むことでADLが向上し、社会復帰へむけての意識が高まるという好循環を、ていねいに時間をかけて取り組んでいきたいと思います。