医療法人つかさ会理事長 高橋メディカルクリニック 高橋 司 院長
当院は平成8(1996)年に開院し、同19(2007)年、この地(広島市中区大手町3丁目)に移転しました。マンモグラフィーや消化器内視鏡など最新の医療機器の導入で、総合的ながん検診、外来化学療法や、ビタミンドック、アンチエイジングドックなど予防医学や抗加齢にも力を注いでいます。
その中から当クリニックで採用している、瀬田クリニックグループの免疫細胞療法についてお話しさせていただきます。
まず「免疫」という概念は、生体防御機能として大きなくくりでいうところのものなんです。
その中で私たちは、体の免疫系を漠然と賦活するというよりも、がんと闘うことのできる細胞―身体の中においては白血球の中のリンパ球群と言われるもの―その中にNKもあるし、アルファ・ベータT、ガンマ・デルタT、CTLなどいろんなタイプのリンパ球があり、その細胞を体外的に取り出して賦活させ、がんを攻撃できるようにして体に戻します。
これまで、がんを攻撃する細胞を体内で増やそうとして、注射を打ったり薬を飲んでもらったりしましたが、そうすると抗がん剤と変わらないような、脱毛や食欲不振、下痢などの副作用が出て、患者さんは非常に苦しみました。
そして分子生物学、培養技術というものが発達し、いま我々のやっている免疫細胞療法では、いただいた血液から得られるリンパ球を、約1千倍から2千倍に増やして活性化させます。
リンパ球というのは、何も刺激がない時はおとなしく流れていますが、細菌やウィルスなどの異物を見つけると闘って、その結果高熱が出ます。
しかし、がんは自分の体の細胞が変化したものですから、まったくの異物ではないんです。しかもがん細胞自体の細胞膜を調べると、正常細胞とは少し違う構造物があり、これを我々はがん抗原と呼んで、ある程度のことは分かっていますが、そのがん抗原が、リンパ球が近づいたら引っ込んだり、いろんな物質を出してリンパ球の働きを弱めたりして、免疫を抑制しようとするんです。
それでなかなか免疫細胞療法が受け入れてもらいにくいことになるのですが、我々の解析や研究がもう少し進めば、また違った進展になるだろうと思っています。
どの免疫細胞療法が適切であるかを科学的に判断するために、患者さんの血液を調べます。
具体的には、いろんな免疫に関わる細胞の数、パーセンテージ、活性度など、40項目くらいを治療の前と後とも比較しながら数値化して、「あなたはこれが少ないから増やしましょう」というふうにやっています。既にがんになっているわけですから、リンパ球群のバランスを取って不足を補うやり方です。(※1)
免疫細胞療法自体は1980年代から知られていて、恩師の江川滉二東京大学名誉教授が、これを民間でやれないものかと考え、瀬田クリニックグループを立ち上げました。
2013年時点で、グループ全体で1万人近い実績があります。しかし我々の立場から言えば、もう治療のやりようがなくなってから来られるのではなく、治療を始める早期から、こんな治療もあると患者さんに広く知らせておくべきだと思います。費用は安くはなく、1回の治療に25万円、6回やれば150万円から170万円くらいです。ほかでも自由診療といわれるものは300万円くらいかかり、保険適用でも新しい薬は何十万円もかかりますから、がんはとても厄介です。
これからの医療は遺伝子の変異に伴って抗がん剤をどうするかという、オーダーメイドの時代が来るでしょうから、その時に備えて我々は、手術で摘出したがん細胞のほんの一部を、最長で10年、「自己がん組織バンク」に無料で冷凍保存することを呼びかけています。詳しくは、ホームページ(http://gan-bank.com/)でご確認ください。
医者を長くやって思うのは、困っている患者さんの手を握り、体に触れて声をかけてあげられる医者であることはとても大切です。回診して患者さんの横で腕組みしているだけの教授に、若い医療者を立派に育てられるのでしょうか。看護師さんにできて医者にできないんですからね。医学の進歩だけでなく、医療の観点から患者さんを見つめてほしいと思います。