へき地に求められるのはどんな医師か

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山都町包括医療センター そよう病院 水本 誠一 院長

1979 熊本大学第2外科入局 1980 熊本赤十字病院外科勤務 1981 熊本大学医学部医学研究科入学 1986 国立療養所宮崎病院外科勤務 1989 熊本大学第2外科勤務1992 ドイツ・ミュンヘン工科大学医学部外科教室客室研究員 1993 熊本県成人病予防協会/外科部長 1998 財団法人杏仁会江南病院外科勤務 2006 同外科診療部長 2008 山都町立国民健康保険蘇陽病院(現、山都町包括医療センターそよう病院)院長 現在に至る■日本消化器内視鏡学会認定指導医 日本消化器外科学会認定医 日本消化器病学会認定消化器病専門医

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ドイツに留学していた時から合唱団に所属。今も熊本日独協会合唱団の団長を務めている。「最古参になってしまいましたからね」

―隣に体育館があります。

 元は馬見原(まみはら)中学校の体育館です。今は町民に開放されていて、ちょうど8月22・23日に開催される火伏地蔵祭の太鼓の練習などをしています。

 そよう病院がここに新築移転してきたのは3年前で、病院前の広場は、普段は住民の健康づくりに使われ、緊急時にはヘリポートにもなります。

―病院の状況は。

 高齢化率41%の過疎地にあり、一般医療、救急医療、予防医療とニーズは高いですが、それを担う常勤医師は4人だけです。ここで求められているのは、一つの専門性にこだわらず、幅広い疾患を診ることができて、治療のトリアージがきちんとできる医師です。そうは言いながらも、それぞれに得意不得意がありますから、そこは4人が少しずつ調整しあっています。私ももう60ですから、経験によって第六感がはたらくようになり、総合力が高まりつつありますが、毎日が勉強です。

―へき地に必要な医療は。

 開業医の先生は一般的に総合医をされるわけですが、勤務医として総合診療のできる人は少ないです。医師のライフサイクルの集大成として総合医的な仕事を選びたければ、少し早めに、来年度から始まる19番目の専門領域である「総合診療専門医」を目指してほしい。へき地では、目の前で困っている患者さんを一通り診られる総合医が求められており、その点で当院は研修にうってつけです。

帰巣本能を信じ研修医に種まき

―どんな研修になりますか。

 初期臨床研修医には地域医療研修が義務づけられていますので、年間で10人以上の若い医師が1カ月単位で来てくれ、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の回診をしたり、健診や訪問診療もやります。さらに、3カ所あるへき地診療所での週1回の診療もあります。慢性疾患の方が多く、処方はあまり変わりませんが、薬を届けてあげたり、健康管理指導をしてあげたりというように、病院の中だけでなく、「出向く医療」も研修してもらうのが、うちの地域医療研修です。

 そして研修が終わると、「患者さんをすごく身近に感じた」「患者をトータルで診るのが、こんなに難しいことだと初めてわかった」などの感想が多く寄せられます。田舎で暮らす人がどんな思いでいるのか、医療面とは別に、その地方特有の事情にも気がついてくれるようです。

―医師を続けて思うことは。

 長く医療に携わっていますと、自分もいずれこうなるんだろうな、と思いながら患者さんを診るようになります。患者さんの訴えを、同じ年代として分かるようになります。でもご家族にとっては初めてのことなので、歳を取って衰えて、やがて亡くなっていく過程というものが分からないんですよね。骨折して、手術はできたけれども入院が長くなって、認知症が出て、再び転倒し、そのうち筋力が衰えて嚥下(えんげ)性肺炎を起こす。そういった過程が4、5年続くんです。そこらのところが子供さんの世代には分かりませんから、私はご家族に、親御さんが死に向かっている過程のどこら辺にあるかを、できるだけお話しするようにしています。

 死が間近になった人の家族に私は、「人の命がこの世からあの世に行くのは、とても大きな断層を越えるわけですから、そこは1人の力だけでは無理なので、しばらく家族も一緒に苦労しましょう」と言います。「それを体験することで自分の心の中に親の魂が残り、あなた方の心に永遠に生き続けますよ」というような話もし、その手助けを医師としてちゃんとやりますよと伝えます。

 もちろんご本人の意思を最優先しますが、家族の思いも十分に組み入れた、納得した最期を迎えていただきます。ほんのしばらくですからね。それをやっておかなければ、自分が亡くなる時に次の世代に気持ちを引き継いでもらえないと思うんです。

―どうして医者になろうと。

 高校生の時に高千穂で「土呂久砒素(とろくひそ)公害」が起こり、その様子を社会科の先生に連れられて調査に行ったのが、この近辺に踏み込んだ最初のことでした。その時から、虐げられた人の面倒を誰かが見なければいけないと思ったんです。そして大学に入り、医局から指示された最初の研修先がこの病院でした。そして50歳を過ぎ、蘇陽病院(当時)に行かないかとの話があり、医師になって最初の思いもあって、ハトの帰巣本能のように戻ってきたわけです。だから今の研修医にも同じように種まきをしておけば、誰かが帰ってくるんじゃないかと期待しているんですけどね。

―静かでいい町ですね。

 ここに来て8年になりますが、2年目から5年目くらいの間に畑を借りて野菜作りをやったんです。早朝などの時間を工夫してね。そうすると入院している人が畑まで来て、私にいろいろ教えてくれるんですよ。その時の立場の逆転が面白かったですね。そして地域で車座の講演会をやると、先生は野菜を作っているそうですねと、何人もの人から共感されました。地域に入っていくというのは、同じものを食べて同じ労働を体験して、同じ考え方を一度はしてみる必要がある、ということだと思います。

 採れた野菜は給食で入院患者さんに出しました。

【岩永製茶園(山都町馬見原)=岩永代表の話】

「夫がそよう病院に入院していた時、見舞いに行くと『今日の給食は水本農園の野菜を使っていた』と話していました。院長の畑は町民の間で水本農園と呼ばれ、町のために懸命になっている院長を見て、自分も何かやろうと思った人が少なからずいて、私はこの町に来た人にガイドのようなことを何度かやりました」


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