福山市民病院 高倉 範尚 福山市病院事業管理者
広島県の東部に位置し人口47万人を擁する中核都市・福山市。唯一の市立病院である福山市民病院は2014年に地方公営企業法の全部適用病院となり、病院事業管理者が置かれた。前院長の高倉範尚・同管理者に現状と今後の展望を聞いた。
福山市民病院は1977(昭和52)年、救急とがん診療をするべき病院として開設されました。現在もその路線をたどり、2005年に救命救急センターを併設、2006年には地域がん診療連携拠点病院の指定を受けています。
■全国トップの救急外傷症例数
福山市の救急出動件数は年間約2万件。うち3千件ほどをここで受け入れています。救急搬送された患者さんの約70%が入院していることを考えると、重症患者が多いと言えると思います。
山陽自動車道・福山東インターが近いので、高速道路上での事故で負傷した人も運ばれてきます。骨盤骨折の観血手術の症例数は全国で1〜2番目の多さ。外傷治療を学びたいと全国から医師がきています。
■領域広がる「がん診療」
私が来た2009年当時のこの病院には、産婦人科の入院診療はありませんでしたが、医師2人を派遣してもらうことで2011年から婦人科がんの治療ができるようになりました。また2013年5月には歯科口腔外科ができ、口腔がんの診療も可能に。現在では小児がん以外のすべてのがんを診療しています。
最新の治療・診断機器の導入も進めています。今年3月には手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を使った手術を泌尿器科領域で始めました。高精度放射線治療装置「トゥルービーム」での治療も11月から開始します。
さらに、子宮がんの治療で、体の中から放射線を照射するのに必要なラルス(遠隔操作密封小線源治療装置)の導入も検討しています。福山市には現在、日本婦人科腫瘍学会に認定された修練施設がありません。圏域の他施設が認定条件を満たすことができなければ、それを満たして認定施設となることが、がん診療連携拠点病院としての役割ではないかと思っています。
救急とがんに関わらない診療科でも、当院ならではのことをしたいと思っています。昨年、総合診療科の医師が赴任し、初期研修医への初療指導を担ってくれています。そしてこの春、研修を終えた6 人のうち5 人がこの病院に残り、うち1人が総合診療科を選んでくれました。この総合診療科は当院の特色のひとつになると思います。
また、地域の教育研修病院として、旗振り役になりたいという希望もあります。そのためには職員のスキルアップが必須です。医師、看護師、技師、薬剤師、すべての職種の人が、この地域のそれぞれの職種を引っ張ってほしいと願っています。
■公立病院間の連携も
福山市を含む6市2町(広島県の尾道市、三原市、府中市、世羅町、神石高原町と岡山県の笹岡市、井原市)でつくる備後圏域の連携中枢都市圏構想を受け、この8月に各自治体の公立病院長、事務部長が集まり、一緒にどのような取り組みができるか話すことになっています。
今も当院から圏域の3公立病院に医師を出していますが、多くの病院が集まれば、医療連携について新たな取り組みができるかもしれません。医療材料の共同購入などもできるかもしれませんね。
救急、がん診療、周産期など特色の違う「マグネット病院」が地域にいくつかあれば、そこに医師が集まり、医師不足に悩む病院に医師を派遣できます。その役割は今後さらに増えると思いますし、当院もそれを担える病院でありたいと思っています。