医療と法律問題23
今回は、医療に直接関わる話ではないのですが、七月半ばにも強行採決といわれる安全保障関連法案について、急遽、とりあげてみます。
この法案は、正式名称を「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」というもので、全部で二〇本の法律の改正をその内容とするものです。その全体を把握することはなかなか難しいのですが、新旧対照表の最初の数頁をみただけでも、そのめざすところは明らかです。例えば、自衛隊の任務について、これまで「直接侵略及び間接侵略に対し」我が国を防衛することとされていたのが、その文言が全面的に削除されて「侵略」という限定が外れます。また活動地域からも「我が国周辺の地域における」という限定が外れます。日本に対する侵略でなくても、内閣が、「我が国の存立が脅かされる危険がある」と判断すれば、自衛隊は世界中で活動できることになります。
ご承知のように、この法案については、提案している与党側が人選した憲法学者でさえも、きっぱりと憲法違反であることを断言しました。ところが、政府はこのような見解を無視し、今国会での採決を強行しようとしています。
私は、安倍内閣の目指す「切れ目のない安全保障」は、アメリカの戦争に対する「歯止めのない加担」に他ならないと考えており、この法案に反対です。日本国憲法前文の、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という理念は、自国の平和さえ維持できれば他国を武力で押さえつけてもいいという独善を戒めるものであり、決して「同盟国が攻められた場合にはそれを無視せずに一緒になって反撃すべきだ」などという意味ではありません。この法案は、第二次世界大戦の反省にたった日本の平和主義を否定するものです。しかし、いま日本で進行している事態は、平和主義の危機に止まりません。憲法が世界の趨勢に合わないのであればそれを無視しても構わないのだ、憲法の文言はどうあれ必要に応じていかようにも解釈を変更していいのだという安倍内閣の態度は、近代国家の共通原則である立憲主義を根底から覆すものです。
そもそも、近代的な意味の憲法は、国家権力の暴走を抑止するために生まれました。多数決では奪えない基本的人権を定め、立法、行政、司法の三権にお互いを抑制する機能を持たせているのはそのためです。
安倍総理大臣は、ことあるごとに、自分が民主的な選挙で選ばれた総理大臣であることを強調します。しかし、あのナチスだって、選挙で第一党になったからこそ政権を獲得したのです。
立憲主義の危機は、とりもなおさず基本的人権の危機です。いま、「沖縄二紙を潰すべきだ」、「マスコミを懲らしめなければ」といった声が与党の勉強会から聞こえてくるのは決して偶然ではありません。
医療制度は、個人の尊厳、生存権といった基本的人権を保障するためにあります。立憲主義が否定され、基本的人権が蔑ろにされるとき、医療制度はどうなるのでしょうか。
「人権こそは、医療が利潤志向的、非人格的、非人間的な産業になることを回避できる唯一の効果的な力である」(ジョージ・アナス)。