新病院開設から1年、新病院建設委員会委員長、現学長に聞く
愛知医科大学 佐藤 啓二 学長
― 昨年の5月9日に新病院がスタートしました。
おかげさまで、一昨年(2013年)の11月末に竣工しましたが、昨年の開院から現在まで、新病院は順調に機能を発揮しています。
今後の計画として、旧病院跡地にはグリーンベルトを作ったうえで、名鉄バスなどのハブターミナルができる予定です。
駐車場だけでなく、レストランやコンビニなどにも入っていただき、ちょっとした待ち時間を有効に利用していただけるような施設にしたいと考えています。
― 新病院は災害に強い病院としてさまざまな配慮がされています。
名古屋市内には名古屋大学と名古屋市立大学がありますが、非常に大きな災害が発生したときには市内交通がマヒすることが予測されます。その時に災害時医療を支えるのは郊外にある本学や藤田保健衛生大学などが中心になるでしょう。
具体的には、新病院は158基の免震装置を備えていますので、地震の揺れを4分の1に抑えることができます。よほど想定外の揺れでない限りは機能が停止することはありません。
1階から3階の外来診察室には壁に吸引装置や酸素吸入装置を完備していますので、応急の病室としてその場所で入院対応することができます。
電源やライフラインはすべて二重化しています。エネルギーも二重化しているので灯油もガスも使えます。地下の井戸水をくんで生活用水に使うこともできますので、まずライフラインが止まることはないでしょう。
基幹災害拠点病院として、綿密な対策と仕組みを構築しています。
― 昨年、学長に就任されました。
医学部と看護学部の2学部を擁する小さな医科系大学で、しかもまだ44年という歴史ですので、すべてが非常にコンパクトです。
これまではそれがハンディキャップでしたが、逆に考えると変革がしやすいという利点もあります。大学改革については、いろんな意味で出遅れていましたので、教育や研究の面でやらなければいけないことがたくさんあります。
― 医療費抑制と医療レベルの向上の両立が求められています。
現在、医療費の増大が問題になっています。少し前の医療費が約30兆円でしたが、現在は38兆にまで増えています。10年後に60兆円まで増えるのは目に見えていて、医療費が膨大に増えていくなかで、我々のように高度急性期医療を行なう特定機能病院が自分の収益だけを考えていてはいけないのではないかという問題意識はあります。
高度医療を担いながらトータルでは医療費を抑制する方向性を模索しなければなりません。
また、患者さんの生活時間をなにより第一に考えることは、私たちに課せられた使命です。
新病院は、それに特化したモデル病院を造ろうと考えました。現在の高度急性期病院のなかでもそういったメッセージを発信できる病院はそう多くないです。
具体的には、外来では3.0テスラのMRIを2台、1.5テスラのMRIを3台整備しています。CTについても、258列が1台、64列のCTを4台整備しているため、外来に来た患者さんがその日のうちに検査を受けることができます。
これまでの病院のイメージというと、外来ロビーや診察室の前に患者さんがずらっと並んでいるというイメージが強いと思います。
しかし、当院ではNAVIT(患者案内端末)を採用しましたので、待ち時間はサービスエリア内であればどこにいてもいいです。喫茶店で本を読んでもいいし、コンビニで買い物をしていてもいい。そういった時間を有効に使って欲しいのでのんびりできる共通のロビーも造りました。
入退院支援センターでは、患者さんの入退院に関連する医療的、社会的問題、たとえば、家に戻ることができるのか、帰宅の障害になっているものはなにかなどを含めてすべて把握させてもらいます。そうすると入院してすぐに治療に入ることができます。在宅にむけた問題も把握しているので退院も早くなります。
早く復帰して社会に貢献してほしいし、高度急性期病院の役目としてはそうあるべきだと思います。誠心誠意、治療にあたることはもちろんですが、医療全体としては医療費を削減する方向に向かうことがなによりも大事になってくるでしょう。
― 拠点病院として、地域の医療機関との連携強化も必要です。
もともと、地域の診療所や病院と情報を共有したいという問題意識がありました。
そこで、富士通の電子カルテを基に、ヒューマンブリッジというシステムを利用して、地域の医師に電子カルテ端末を提供しています。そうすると、紹介いただいた医師は、端末を使って紹介した患者さんの入院情報が服薬情報や検査画像も含めてすべて閲覧できます。
地域ぐるみで患者さんを見守るという理念があるので、そういう仕組みが構築できたのだと思います。
― 構想から実現までのスパンが短いですね。
高度急性期のモデル病院として走り続けるためにも、とにかく休むわけにはいきません。
5月に開設した「先制・統合医療包括センター」は、医学教育センターの教授だった福沢嘉孝先生が中核になって動いています。
多くの患者さんのメッセンジャーRNAデータを集めていくことで、その変異の程度でがんリスクを調べることができるようになります。未病の段階で診断できると医療費も大きく軽減できるので、三宅理事長がずいぶん苦労されて実現しました。
最後に、専門医制度が変わります。
専門医制度では大学病院が中核になっていきます。大学病院を中心とした連携病院を含めて、大学病院の果たす役割はますます大きくなります。
卒業生が専門医を取得するための支援を充実させるためにも、卒後臨床研修センターを活用した専門医資格取得の支援を考えていきます。