公立大学法人 愛媛県立医療技術大学 橋本 公二 理事長・学長
―貴学の特徴は。
松山市から少し南に位置する砥部町にあり、1988年(昭和63年)に開学した短期大学の歴史の上に、2004年(平成16年)に4年制大学として設置され、2010年(平成22年)に大学法人化、2014年(平成26年)4月より大学院が設置されました。
現在、「看護学科(75人)」と「臨床検査学科(25人)」から成る保健科学部、2012年(平成24年)に設立され1年制の「助産学専攻科(15人)」に加えて、大学院(修士課程)の「保健医療学研究科」があり、「看護学専攻(5人)」と医療技術学専攻(3人)の2つに分かれています。
看護師だけでなく、臨床検査技師、助産師を養成しているのは、愛媛県では本学のみです。
少子化が問題となり、産科医師も少ない昨今、妊娠から産後までケアできる「助産師」養成の必要性は高くなっています。
本学では、4年生大学卒業後、国家試験を合格した看護師が1年課程の「助産師専攻科」を勉強し助産師になります。
ここでは、知識と実技の両面に基づく高度な対応力が要求されます。お産の現場に立ち向かうのは簡単なことではありませんが、その分、助産師を志望する学生には「小さいときから子供が好きで」という強い意志を持った人が多いように思います。
大学はこじんまりとしていますが、校舎も中庭にも全国的に有名な砥部焼のタイルが使われており、粋な佇まいです。
砥部町に設立されたのは、「若い学生さん」を受け入れて、砥部町の活性化を計りたいとの要望があったとのことです。
―指導実績は。
国家試験の合格率は、看護師・助産師・臨床検査技師のいずれもほぼ100%で、就職率もずっと100%です。
学生の質も高く、毎年の入試倍率は、両学科とも3倍超。1年前の看護学科の入試倍率は7倍でした。県内から6割、4割は県外からの入学で、臨床検査学科においては、南は沖縄、北は北海道の出身者も在学しています。
「愛媛の文化、故郷らしさを学ぶ」というプログラムもありますが、是非本県に就職してもらいたいという思いを込めたものです。
学生数約400人に対し、大学の教員は定数59人。そのうち41人が看護学、残り18人が臨床検査学を指導しています。小規模大学という個性を生かし、少人数のグループ学習や各種ゼミナールを中心に、きめ細かい指導を心がけています。
意外に思えるかも知れませんが、本学では基本的な日本語の文章表現や語学の教育にも力をいれています。
これは、最近のスマホ世代の学生達には重要で、その上でコミュニケーション論などを学ぶとともに、カウンセリング、面接技法を指導します。
これらは、患者・医師をはじめとして多くの職種の人々と接する医療職にとっては極めて重要なことであり、看護職・臨床検査技師の専門的な知識を学ぶ前提として、重視しています。
医療系大学で重要な「実習」は、愛媛県立中央病院や愛媛大学附属病院など各病院のご協力をいただき、教員同行の上、指導に臨んでいます。
「チーム医療」は、現代の医療の中心的命題であり、「大病院」と「在宅医療」のどちらでもその対応力が求められます。
チーム医療のまとめ役に適した人材の視点で考えますと、医師は診断・治療に専念する方が望ましいことから、看護師や臨床検査技師の役割が非常に重要であると考えられます。
地方では、各地方の実状に精通したチームリーダーの養成が大事になります。このような視点から、本学は「愛媛の医療のリーダー的人材育成」を目標としています。
―教育で大切なことは。
教育は国の根幹です。私は大阪大学医学部に入学したときに、当時の医学部長の先生に大阪大学医学部の前身である「適塾」に連れて行ってもらいましたが、適塾からは、大村益次郎、福沢諭吉など多くの人材が輩出されています。
これには非常に感銘を受けました。明治維新がうまくいったのは、江戸時代の教育の成果だと思います。近視眼的な考えでなく、先見性をもち、教育を行うことは極めて大切です。
この事に関して、最近、大学に職業訓練を重視するよう要請する風潮が一部に見受けられますが、私は疑問に思っています。
本来の大学は必ずしも企業に就職する人のトレーニングの場というだけではありません。
これからは、ドラスティックな変革が予測される社会です。急激な変革に対応できる強い精神性と自分で考える力を持った人間を送り出すのが大学の使命であり、医療系大学においても同じであると考えています。
少し、話は変わりますが、基礎研究の重要性についても述べたいと思います。
最近、研究の成果を経済効果で計るようなことがしばしば論じられます。
その代表的なものが山中先生のiPS細胞だと思うのですが、山中先生も最初から再生医療のために始めたわけではなく、分化した細胞が未分化細胞に変わるメカニズムそのものに興味を持ったのではないでしょうか。
おそらく、一人で荒野に踏み出すような気持ちで研究をはじめたのだと思います。
しかし、そのような先が見えない研究に「面白そうだから、やってみなはれ。」と山中先生の研究を支援する度量が日本にあればこそ、現在の成果に結びついたのだと思います。
「未来のシーズは基礎研究にあり」との考えで国もしっかりと基礎研究を支援してほしいものです。
それから、愛媛出身で徳島大学が輩出したノーベル賞受賞者の中村修二先生の例もあります。
地方大学にも、しっかり目配りしてほしいですね。
ー地域交流センターがあるようですが。
「大学が地域にできること」として、地域交流センターを通じて活動しています。
具体的には、愛媛県主催の講習会への協力、一般の方々を対象とした公開講座の開催などを行なっています。
さらに、これらとは別個に将来を見据えた新たな取り組みとして、「地域包括ケアシステム」のモデルづくりのサポートを計画しています。
「地域包括ケアシステム」は厚生労働省のもっとも重要な施策の一つで、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で安心して暮らせるための環境整備を目指すものですが、地域・保健医療関係のみなさんと連携し、健康・医療・介護の知識と技術を公開、指導しようとするものです。
具体的には、西予市と協力し、5カ所ほど拠点を置き、ITによるE―ラーニング講義、リアルタイム相談などを導入し、「在宅ケア」に臨む人材育成を支援します。
この取り組みで、まずは西予市が成功例となり、愛媛県における「地域包括ケアシステム」のモデルケースとなることを目指しています。