医療法人 土佐病院 須藤 康彦 院長
土佐病院は1933年創設、今年で82年目を迎える。
昨年2月には新病院が完成し、今後の医療需要の変化に対応可能な病院づくりを着々と進めている。
須藤院長に新病院についてや今後の展望について話を聞いた。
ー昨年2月に新病院が完成しました。工夫した点と今後の課題を教えてください。
精神科救急を行なうのに最適なハード作りと動線づくりに腐心しました。また患者さんのニーズに応えるべく個室数を増やしました。精神科なのでプライバシーに配慮し、今後の医療需要に対応できるよう、ほかの病室も間取りが変更できる設計にしています。
以前の精神科治療は収容型治療が主流でしたが国が在宅療養を推進した結果、精神科病床は削減されました。当院も1988年は260床でしたが、継続的にダウンサイジングを進めてきた結果新病院では180床になっています。
高知県でも高齢化は進行していて、これまで以上に地域との連携は必須です。高齢者は身体合併症を持つ人が多いし、認知症も精神科が診るのか地域の病院で診るのか、福祉で診るのかの問題があります。
高齢者は増加するが療養病床は減少します。今後どのような運営をしていくべきか自問自答する日々が続いていますね。
ー精神科救急病棟がありますね。
救急病棟の稼働率はフル稼働。そのうち6、7割が統合失調症の患者さんです。
新病院を造るにあたって救急のベッドを従来の36床から48床に増やしました。当初の予想ではベッドが空くかもしれないと思っていましたが、ふたを開けてみれば満床です。うれしい誤算でしたね。
県西部の山間地域は病院が少なく、とりわけ精神科病院は不足しています。患者さんは県内各地から来ていて室戸や四万十など遠方から来られる人もたくさんいるんですよ。
ー高知駅から徒歩10分。アクセスがいいですね。
昔は病院の周囲は田畑ばかりでした。その後駅が出来て周囲の開発が進み、気付けば街なかの病院になってましたね。
ー地域での活動について教えてください。
かつては長期間入院している患者さんがほとんどだったので、季節感を感じられるように夏祭りや秋祭り、運動会などをしていました。最近は在院日数が減ったこともあり、患者さん対象というよりは地域住民を対象としたイベントを行なっています。実際に病院内をみてもらうことで精神科病院への理解も深まるのではないでしょうか。
ー職員に心がけてほしいことは何ですか。
身内を入院させたいと思える病院であらねばと思っています。
病院のモットーは「誠意」「協調」「進歩」です。チーム医療が唱えられるはるか前に作った言葉で先見の明があったとひそかに自負しています。
精神科と他科とはまったく別物だととらえられがちで、精神医療に従事する者ですらそう思っている風潮がありますが他科との交流は必須です。
私は隔週で日赤病院に赴いてますし、看護師の派遣もしています。精神科だけにとどまらない医療を意識しています。
今後は精神科医であっても身体症状を診られないといけないし、身体科の医師も精神疾患を診なければなりません。
全国各地に総合病院ができれば話は別ですが、現状では不可能です。地域のかかりつけ医であっても、ある程度、精神疾患の知識を身に付けてもらいたいですね。
ー地方の医師不足についてどうお考えですか。
新臨床研修制度の影響で地方での医師確保は困難を極めています。
当院も医師確保には苦労しています。高知に残る人が少なく、とりわけ精神科医は少ない。当院は救急もやっているので忙しいですが、身につくことは多いと思うので、多くの医師に来てもらいたいと願っています。
ー精神科医に求められる資質とは何でしょう。
他者に関心を持つことが大切です。精神疾患は状態が数値化されるわけではありません。極端な話、他科では患者さんの顔を見ずとも診断が可能ですが、精神科は違います。
患者さんのなかには自覚症状がない人も多いので、相手に関心をもち、話を引き出してあげなければなりません。学問以外にも興味を持ち、疾患だけでなく患者さんの置かれた社会背景、家族背景までをも考慮しなければならず、高い教養と人間としての懐の深さが求められます。
高齢の患者さんに人生経験の浅い、若い医師がアドバイスをしても説得力がないかもしれませんが、人間力でそれを補ってほしいですね。
ー影響を受けた人物を教えてください。
先代院長でもある父です。夜中に病院から呼びだされることもしょっちゅうで、休日に家族で出かけた思い出もほとんどありません。寂しかったですが、当時は医師の数が少なく、父にかかる負担が大きかったんだと思います。
今では父の苦労がよく分かります。家庭を顧みず医療に没頭してくれたおかげで今の土佐病院があります。患者さんからも地域からも信頼されていると実感しているので私はそれを守り続け、さらに発展させ続けなければなりません。