医療法人平成博愛会 博愛記念病院 武久洋三 理事長
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の上位資格として「総合リハビリテーション療法士」を提唱している。「患者さんの利便性を考えたら当たり前の発想ではないか」と語る。30年前に徳島市に博愛記念病院を開設。「理想の医療現場」を求め続け、現在では全国各地に71施設を運営するに至っている。その力の源、着眼点について尋ねた。
今の診療報酬体制は、普通に治療していれば利益が出るようにつくってあると思うんです。でも我々は、診療報酬が付く前から、必要なことを先に先にとやってきました。するとあとから診療報酬がついたことが多いんです。デイケアも訪問看護も、うちは診療報酬がない時からやり始め、4、5年が経ってから付きましたね。地域にニーズがあることをしていたら、「なるほど確かに」と国が付けて、それでほかの医療機関もやりはじめるわけです。
でも、先にニーズに応えるほうが地域の信頼が得やすいですよね。地域の人から見て、どこの病院がニーズをわかってくれているか、利用者のためにいちばんいい道をどの病院が知っているか、ということです。
実は当院にイヌとネコが30匹ずつくらいいるんです。患者さんが一人暮らしでイヌやネコを飼っていて、入院の際に保健所に連れて行くのはかわいそうだと社会福祉士が言うから、じゃあしばらく預かりましょうと親切心で言ったら、退院する時に、ここに会いに来ますからと置いて帰る人がいて、その鳴き声が外に聞こえて、あそこに連れて行ったら飼ってくれるぞと、ますます増えている状態です。
―在宅への流れをどう見ますか。
在宅がいいのは誰もがわかっています。人間は家にいるのが一番いい。病気になって否応無しに非日常の病院に来るわけです。そしてよくなったら日常に帰る。
人間も生き物である限り、可能な限り生きていたいというのが本能です。どんな経済状況であろうと、家族がどう言おうと、本人に生きる意思がある限り、うちは最後まで手を尽くします。本人の同意のない家族の意見に現場の医療が束縛されることは理解できません。
―日本の医療はどうなりますか。
大局的には厳しくなってくると思います。医療と福祉がこれ以上良くなるとは思えず、現場は疲弊します。
このほど国は新たに、地域の複数の医療法人などをグループ化して一体的に運営する、地域医療連携推進法人(仮称=一般社団法人)制度のようなものを創る流れで、平成30年までに、実質的に1000病院はなくなると思います。「ほぼ入院、時々在宅」だったのが、昨年の診療報酬改定で逆になって、空床の多い病院が増えそうです。
議長だった時、病院経営はほかの産業に比べてとても恵まれていることを皆に言ってきました。でも病院経営者の多くは、「患者さんが病院を選ぶ基準は何ですか」と問われて、MRIや新式のCTがあるとか有名な医師が来たとか、そんなことだと思っているわけです。そこが国民の意識とズレていますから、そのような病院は当然選ばれず、有能な職員も去っていくことになります。
―医療者に厳しい目が向けられる時代ですね。
どの現場が楽で金が儲かりそうかという目で見る医者が増えてくれば、国民は不幸です。昨今は国民の側も口やかましくなって、医師も防衛することになり、それが過剰な診療になって、結果として医療崩壊のほうに向かっています。だから医者になる人には、医学部受験の前に適性検査が要ると思います。成績だけで決めるとろくなことになりません。
たとえばリハビリでも、夜も訓練したほうがいいと私は言っているんです。夜中にトイレに行きますからね。だからうちは夜間訓練をやっています。でもその必要をわからず、昼の訓練だけで済ませようとする医療者がとても多い。患者さんの視点に立っている医者は最近少ないようです。ちょっと厳しいですね。
―健康法は。
趣味を持つことです。私は仕事が趣味で、患者さんを診るのが一番楽しい。今も横浜で糖尿病外来をやっていますが、病院が全部で26あり、今年になってさらに3つ増え、それぞれに経営方針を決めていかなければなりませんからとても忙しく、でも一か所にじっとしているのが苦手なほうなので、私を求めてくれる人がいればそれに応えていくようにしています。