医療法人エム・エム会 マッターホルンリハビリテーション病院 白川 泰山 理事長/院長
マッターホルンリハビリテーション病院の名前の由来は、白川院長の父親である先代院長が登山好きで、アルプス山脈に属するマッターホルン山からとったもの。白川院長の名前にも「山」が入っている。
呉市のリハビリテーションを一手に担う同院は医療という山の頂に挑み続けている。
―病院の特徴を教えてください。
呉市は急性期病院が多いのですが、回復期病院は少なく、当院は、その受け皿になるべく、リハビリ中心の医療を提供しています。
脳卒中の患者さんの神経機能回復の促進を目的としたリハビリテーションを「ニューロリハビリテーション」と呼びます。我々の特徴は、ロボットスーツ「HAL」と電気刺激を組み合わせ、このリハビリを行なっているところです。
人間は筋肉を収縮させようと意識して筋肉が収縮するのではなく、ひとつの動作をする過程で、筋肉は動く。動作を学習する過程で、筋肉の収縮は得られます。動作を学習するのにHALや電気刺激は有効です。肘を上げる動作ができれば、必然的に筋肉も動く。動かせない人はきっかけを与えてやらなければならない。人間が体を動かすとき、「さあ動かすぞ」と頭で考えるのではなく、無意識に動いています。口で言っても理解できるものではありません。とにかく体で覚えるしかないのです。一つの動作ができるようになると、それを脳が認識して、次の動作が行なえるようになります。
当院は回復期リハビリテーション病院です。急性期病院から回復期の患者さんを年間約250人受け入れています。
呉医療センター、呉共済病院、中国労災病院などから患者さんを紹介してもらい、リハビリを行ないます。
患者さんの内訳は40〜50%が大腿骨骨折、40%が脳疾患、残りの10〜20%が廃用性症候群の患者さんです。
私はスポーツ整形が専門で、同じ筋肉を何回も使うことで慢性の疲労性炎症が起きるオーバーユース症候群の治療に力を入れています。筋腱付着部炎への対外衝撃波治療を行なっているのが特長で、今後も力を入れて取り組んでいきたい分野です。
―ロボットスーツHALについて教えてください。
HALは1996年に筑波大学の山海嘉之教授が開発しました。医療分野のほかに、介護での活躍も期待されています。近いうちに腰用、腕用のロボットも出るので、導入を検討している最中です。
広島県では当院だけが導入していて、現在、3台あります。全国でも、まだ30台ほどしか導入されていません。
―今後の課題は何ですか。
呉市は高齢化が進んでいて、老老介護や独居世帯が問題になっています。骨折で、うちに来る患者さんの3割強が90歳以上です。70歳の人が在宅に戻っても、比較的若いご家族がいるので問題ないのですが、80代以上になると家に帰っても同年代の奥さんしかいないか、一人暮らしがほとんどなので、なかなか在宅復帰を推し進めるのが困難な状況です。
まずは身体能力をどれだけ高められるかが課題で、健康寿命を延ばすべく、自立した歩行能力の獲得のためのリハビリ、前期高齢者の段階から病院に来てもらい、ロコモティブシンドロームにならないように健康増進を勧めています。
現在、3名のメディカルソーシャルワーカーを配置し、家族との連携、サービス付高齢者住宅などへの紹介など、地域とのきめ細やかな連携をはかっています。
―呉は気候がいいですね。
呉市は「住みやすい街100選」に選ばれています。大規模な急性期病院が多く、医療アクセスが良好なのが、その理由です。高齢者にとって住みやすい、いい街ですね。 温暖な気候で、かつては南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)も冬季キャンプをしていました。海も近く、高速道路も通っていて、スキー場に1時間ほどで行けます。
海上自衛隊があるので災害に強い街でもあります。呉医療センターが広島県の3次救急を行なっていますし、自衛隊病院もあるので、有事の際はヘリコプターなどで他の地域へ搬送可能です。呉市から主に広島市へ搬送され、まれに福岡県の北九州市まで搬送することもあるそうですよ。
―ホームページに「Life is Motion」とあります。そこに込められた思いは何ですか。
「Life is Motion」はアリストテレスの言葉です。
呼吸すること、動くことこそが生きることです。寝たきりで人生を過ごすよりも、心と体を動かしていくことが重要だとの思いを込めています。
病院理念は、マザーテレサの「ANY WAY」です。
医療をしていると、うまくいっても、いかなくても、お叱りを受けることがあります。この言葉を肝に命じ、何があってもくじけずに前へと進んでいくつもりです。
「ANY WAY」=でも、とにかくやってみる。みなさんもこの言葉を忘れないでください。