医療事故と法律22
医療事故調査制度について、厚労省はパブリックコメント募集手続を経た上で、5月8日付で医療法施行規則の改正を公布、また同日付で各都道府県知事宛にこれに関連する通知を発出しました。内容的には3月20日付で発表された「医療事故調査制度の施行に係る検討について」から変わっていません。
これにより、本年10月から始まる医療事故調査制度に関する法律的な議論は一応の決着を見たことになります。
この議論が行われている間にも、さまざまな医療事故が報道され、そのうちの3件については、本年2月から3月にかけて事故調査報告書が公表されています。
1つは、千葉県がんセンターにおいて、2008年から2014年にかけて、腹腔鏡での膵臓や肝臓などの手術をうけた癌患者11名が術後短期間のうちに死亡していたというものです。11例中少なくとも7例は保険適用外であり、11例中8例が同じ執刀医による手術でした。
群馬大学病院では、2010年12月から2014年6月までに確認された腹腔鏡下肝切除術のうち、58例が保険適用外の疑いがあり、そのうち8例が術後4ヶ月以内に亡くなっていました。8例の執刀医はいずれも同じでした。
また、東京女子医大病院では、頸部嚢胞性リンパ管腫を受けた2歳10ヶ月の患児に、人工呼吸中の小児に鎮静目的で使用することが禁忌とされているプロポフォールを長時間にわたり大量に使用し死亡したという事件が報告されました。
これらの事件の報告書はネット上でも公開されており、事件そのものについてだけではなく、その事故調査のあり方についても様々な言説が飛び交っています。例えば群馬大学病院事件の報告書が、問題となった1つ1つの手術について「過失が認められる」といった事故調査報告書の本来的な役割を超えると思われる評価を行っていること、東京女子医大病院事件の報告書が、調査対象となった医師たちの防衛的姿勢を「はなはだ無責任な言動」と批判していることなどが、医療事故調査制度のあり方との関係で話題になりました。
しかし、わたしが1番注目したいのは、千葉県がんセンターの死亡事例について、何度かの院内事故調査が実施されていながら、しかも、外部委員を加えた院内事故調査委員会で、安全性・有効性が確立していない保険適用外の手術は倫理委員会を通さねばならない等という問題点が指摘されていたにもかかわらず、その後も倫理委員会に諮ることなく保険適用外の手術が繰り返されていたということです。院内事故調査にとどまらず、第三者的組織による調査が実施され、その結果が公表されていれば、これほどの死亡者が出る以前に再発防止策を講ずることができたのではないでしょうか。
なお、群馬大学病院の医療安全管理部長が、自分の大学の第二外科における腹腔鏡下肝切除術の術式及び保険適用範囲を調べることにしたのは、この千葉県がんセンターの報道に接したことが契機になっているようです。
最近、医療事故情報の公表が医療安全の敵であるかのような見解が声高に主張されていますが、本当の敵が医療事故の隠蔽であることは明らかではないでしょうか。
■九州合同法律事務所=福岡市東区馬出1丁目10-2 メディカルセンタービル九大病院前6階TEL:092-641-2007