国立大学法人 佐賀大学 医学部附属病院 森田 茂樹 病院長/胸部・心臓血管外科教授
かつて九州初の心臓移植を成功させた森田茂樹医師。2008年9月に佐賀大学医学部附属病院胸部・心臓血管外科教授に就任、昨春からは院長としても、その辣腕(らつわん)を振るう。教授として、院長として、目指すものは。その思いを聞いた。
―教室の強みは。
成人の心臓血管外科としては心臓移植以外の治療すべてが満遍なくできるようになりました。
補助人工心臓については、昨年2014年8月と9月に植え込み型(体内型)補助人工心臓手術の1例目、2例目が実施できました。私は心臓移植が専門です。移植ができる施設は、九州に一つでいいと思いますが、佐賀大学で人工心臓を入れて移植を待つことができるようになったのはよかったと思います。
「大動脈の血管内ステント治療」は2009年から始めて年間50例ほど、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は昨年3月にスタートし、月に2〜3回のペースで行なっています。
大動脈瘤(りゅう)ステント治療とTAVIは、教室員が大阪大学に2年間行って学んできてくれました。当初TAVIは予定していなかったのですが、ちょうどその時期に大阪大学でTAVIの治験が始まり、その実際を経験できたのです。さらに病院の再整備でハイブリッド手術室が完成してハード面の条件が整ったということもあり、当院でもスタートできました。
心臓から腹部、下肢の末梢動脈までの手術すべてを担当するのも特徴の一つです。患者さんからすると、頭部以外の血管の疾患はすべてうちの科で間に合うというメリットがあるでしょう。臨床修練の場としても恵まれていると思います。
2008年に形成外科、循環器内科、心臓血管外科による、末梢動脈病患者の下肢救済チームができたのも大きなことだったと思います。きっかけは、形成外科の先生からの提案。足の壊死の原因となる血流の悪さを改善する技術がある科が集まって、定期的にカンファレンスをしようということでした。
狭くなった血管内をバルーンで広げるのは循環器内科。細かい神経や血管を顕微鏡手術でつなぐのは形成外科。われわれ心臓血管外科は、血管のバイパス手術が得意です。
自分たちの診療科で難しくても他の科でできる場合があります。1人の患者さんに対して足の先は形成外科、膝周辺の部分は心臓血管外科と分担することもできます。佐賀大学に来た人に対して、持てるすべてを出し、ベストな治療を提供する。「オールジャパン」ならぬ「オール佐賀大」で挑むことができるのはうれしかったですね。 形成外科の上村哲司准教授が編集代表となって、診断・治療からリハビリ・フットケアまでをまとめた教科書「下肢救済マニュアル」も出版しました。かなり需要があるようです。
この下肢救済チームを一つのモデルとして、消化器や脳など内科と外科が並立している他の部門でもチームで診る形を作れないかとイメージしています。病院長2年目の今年は、その準備ができればとも思います。
―研究面は。
血管と心臓の再生医療に取り組んでいます。
特に血管では、直径2〜3mmの細い血管を作るプロジェクトで、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)から1億円以上の研究費をいただいています。
このプロジェクトで使うロボットは、九大のバスケットボール部の後輩で、今年から佐賀大学医学部の寄付講座の教授をしている中山功一教授の研究によって生み出されたものです。今はできた血管をラットに植え終わり、ブタに植えるところまで来ています。
直径4ミリ以下の人工血管は、体内に埋め込んでもすぐに閉塞してしまうという欠点がありますが、自分の細胞でできた血管は詰まりません。将来、心臓の冠動脈バイパス手術や人工透析のシャント手術、下肢のバイパス手術などで使えるようにしたいと考えています。
―教授兼病院長となって1年ですね。
病院長になってからも、週に1度ぐらいは手術室に入ります。手術できるスタッフは揃っていますが、手術室の空気を吸っていたい。現場から離れてしまうと、医師としてだけでなく病院長としての判断も鈍ってしまうような気がするんです。
―若い世代にアドバイスを。
仕事の中で自分にとっておもしろいことを早く見つけてほしいですね。楽しいことは自ら勉強します。勉強して詳しくなると人に尋ねられるようになり、そうすると、さらに勉強する気になります。そんなポジティブなフィードバックに早く入れるといいと思います。