国立大学法人 岡山大学 森田 潔 学長
医学部は2020年で創立150周年。大きな節目に向けて、盛り上がっているところです。
教育は伝統によって培われます。しかし岡山大学としての歴史はまだ65年。戦後、岡山医科大学を中心に、第六高等学校、岡山師範学校、岡山青年師範学校、岡山農業専門学校を包括して発足しましたから、新設だともいえます。だからこそ、大学全体で150年の歴史を大事にして、誇りを持ちたいと考えています。
医学部と他学部はキャンパスこそ鹿田と津島に離れていますがうまく連携できています。特に、工学部や農学部の生物系研究室と医学部の研究室が、共同で融合型の研究をすることが多いですね。
今後、医・工が連携する大学院をつくる予定です。さらに医療経営の専門家が学内にいませんので、この分野でも人を育てる環境をつくりたい。総合大学ですから、学部間の交流をもっとすべきだと考えています。
私は「岡大の1番の売りは医学部だ」と公言しており、医学部が全体を引っ張るのが戦略です。しかし他の学部も、医学部とは別の伝統が引き継がれており、優秀な人が多くいます。
例えば、法科大学院の司法試験合格者は毎年10人以上で、これは中四国で最も多い。弁護士の就職は難しいのですが、岡大では医局のような仕組みをつくり、就職先を斡旋しています。大学病院や大学にも弁護士となった卒業生が勤務をしています。
学長の仕事にも生きる麻酔科医の経験
岡大麻酔科は今年50周年です。私も40年間関わってきました。東大に10年ほど遅れてできましたが、今では「麻酔は岡大だ」という自負を持っています。
今は、私の跡を継いだ森松博史教授が、医局員を増やすこと、臨床と研究の質を上げることを目標に奮闘しています。若い教授に変わった直後は、質が低下することもありますが、そのようなことも一切なく、私は後進に恵まれました。
麻酔科医の仕事の一つは医師間の調整役で、それが学長の仕事にも生かされています。また麻酔科医と同じで、他の方の仕事をやりやすくするのが、学長の仕事だとも思っています。
大学病院+関連病院統合で3000床構想
市民が総合大学を評価する時に重視しているのは、大学病院の印象です。総合大学の学長に病院長経験者が多い理由も、そこにあると思います。
ですが私は学長になってすぐ、大学から大学病院の経営を切り離す構想を打ち出しました。ホールディングカンパニーをつくり、現大学病院と市内の関連病院の計6病院を統合して、医療提供体制の効率化と機能分化を図るものです。
統合して1つの大病院にすることで、今より多様な医療が提供可能になります。また海外の大きな病院に負けない3千の病床数で、臨床研究もやりやすくなるでしょう。そして各病院が、大学病院として高度な医療を提供できるようになるわけです。もちろん急性期だけが高度医療ではありません。教育に資するところも大きいはずです。
病院長時代から考えていたこの構想を、経済同友会で話したところ後押しをしてくれ、一緒に先進地のピッツバーグまで視察にもいきました。
安倍政権に代わり、産業競争力会議分科会でもこの話をしたんですよ。また本会議でも取り上げられ、日本再興戦略の閣議決定に、大学病院を中心とした医療統合を進める内容が入りました。
今は政府だけでなく、県や市もバックアップしてくれています。無理だと考えている医療者が大勢いると思いますが、私は難しくても無理だとは思いません。力を貸してほしいと思います。
教育における岡大の大改革は、前期・後期の2学期制からクオーター制にし、講義の時間を90分から60分にするというものです。
2016年度の4月から全学で始めます。60分というと短くなるようですが、これまで90分で2単位だったものを60分で1単位にするので、学習時間は伸びます。どちらも国際化をにらんだものです。
日本の大学は海外に比べて学習時間が短く、国際標準を満たしていません。このため、日本の医学部を卒業した医師が米国に留学しても、臨床に携われない状況になりつつあります。
このことから医学部では、2014年度からすでに60分講義です。学生だけでなく教員の負担も増えるのですが、喜んで賛同してくれる医師ばかりだったのでスムーズに移行は進みました。
先行して医学部で導入していましたから、全学での導入もやりやすいという背景があります。「医学部が全体を引っ張る」私の戦略は、うまくいっているようです。
岡大は先進的な取り組みをしている大学です。国際的に活躍できるような人を、今後も育てる努力をしたいと考えています。