宮崎大学附属病院救命救急センター長 宮崎大学医学部
病態解析医学講座 落合秀信 に聞く
医師の偏在
「医師の不足と偏在が宮崎県における救急医療の問題点」と語るのは宮崎大学医学部附属病院の医師、落合秀信さん(51)。宮崎県における救命救急の第一人者として2012年4月から附属病院救命救急センターの初代センター長を務めている。
落合医師によると、宮崎県全体では人口あたりの医師数は全国平均(10万人あたり200人)に達しているものの、じつは全国平均を満たしているのは宮崎市だけであり、ほかの地域、とくに山間部などの医師不足は深刻だという。
「医師が少ないうえに平均年齢も高く、マンパワーが不足してくる。その影響で2次救急病院が疲弊しています。夜間などの人員不足になる時間帯は、3次救急病院が1次、2次まで診なければならなくなる」
救急システムにおいては、1次、2次、3次にかかわらず一括して初期診断ならびに治療を行う北米式ER型 ( 救命救急室) という方式がある。落合医師は「患者さんは自分が1次救急か2次救急かわからないのでER型のほうが現状にあっているかもしれない」と話す。もっとも、ER型を広く普及させるにはバックアップ体制などクリアすべき課題が多く、まだあまり普及していないのが現状である。
ドクターヘリの登場
医師の偏在、とくに救命救急医の不足を解消するために宮崎県は宮崎大学附属病院救命救急センターを拠点として、2012年からドクターヘリを、2014年からはドクターカーの本格運用を開始している。
救命救急センターには年間2500人ほどが救急搬送され、そのうち170件ほどがドクターヘリで運ばれてくる。ドクターヘリについて落合医師は、「救命率を上げる」「地域を無医村にしないこと」の2つの目的があると話す。
「宮崎の山間部は医師が少ないので、地域に一人しかいない医師が搬送に同行して救急車に乗っていくと、その間は無医村になってしまう。だから重症患者さんの搬送にも積極的にドクターヘリを呼んでほしいと広報しています」
ドクターヘリの運用開始を受け、宮崎県内では全域に400カ所のヘリポートが整備され、そのうち6カ所は病院に併設している。ヘリポートがない場合はグラウンドや公園、河川敷に降りることもあるという。
昨年、本格運用を始めたドクターカーは、ドクターヘリの補完として基本的に県内全域をカバーしている。有視界飛行が義務付けられているドクターヘリの弱点をカバーし、日没から23時までがドクターカーの待機時間だ。また、県立宮崎病院もドクターカーの運用を始めたため、県立宮崎病院は日中、救命救急センターはドクターヘリが終わった夜間に運用するという形で棲み分けを図っている。
ドクターヘリ事業はしかし、空を飛ぶという非日常をはらむがゆえに運用にあたっては細心の注意が必要になる。
「ドクターヘリが、たとえ1回でも事故を起こすと事業停止になる可能性があるので、とにかく安全第一です。降りる際には消防の支援隊が安全確認しています」
病院間の連携
宮崎県の救命救急体制にとって転機となったのは、宮崎県医師会が主して「宮崎大学救命救急センター逆搬送体制委員会」が作られたことだ。
「救命救急センターの病床がいっぱいになった場合は、ある程度容体が落ち着いた患者さんには県内のほかの病院で受け入れるという体制(後方連携)を作っていただきました。ほかの医療機関との連携がうまくいっているからこそ現在があるんだろうと思います」
最強の医師を育てる
落合医師はドクターヘリを有効活用するために啓蒙活動の必要性を感じているという。さらに今後の展望としてドクターカーの積極運用も視野にいれている。
「大学の教員としては、優秀な医師の育成にも力を入れたいです。患者さんが笑顔で帰ることが医師としての生きがい。学生にはそこをわかってもらいたい。一人前の救急専門医にするにしても、大学だけの教育では偏ってしまう。多様な経験を積ませたうえで、オールラウンドで診ることのできる〈地域最強〉のドクターを地域の医療機関とも連携しながら作っていきます」。