早期胃がん 機能温存手術にひたむきに

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医療法人八宏会 理事長 有田胃腸病院 院長  有田 毅

1960 熊本大学医学部卒
1961 同部第一外科入局
1969 下関厚生病院脳神経外科部長
1970 大分市医師会立アルメイダ病院外科部長
1973 川崎市がん検診センター勤務、東京都がん検診センター非常勤(この間、国立がんセンター病院において胃がんX線診断学並びに臨床病理診断学研修)
1974 大分市医師会立アルメイダ病院外科部長
1976 古澤胃腸病院副院長
1981 有田胃腸科医院開設
1983 有田胃腸病院開設
1996 大分医科大学(現・大分大学)第一外科非常勤講師
1999 大分医科大学臨床教授日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会認定専門医・指導医、日本外科学会認定専門医・認定指導医、日本消化器外科学会専門医・認定指導医、同学会消化器がん外科治療認定医など

 大分市にある有田胃腸病院は、開院から30年余。腕の確かさと丁寧な応対が、口コミでも話題となっている。胃がん、特に早期胃がんの診断と治療に力を入れてきたという有田毅院長に、その経緯と思いを聞いた。

胃がんを診断できる外科医を目指して

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 34歳の時、大分市の医師会立アルメイダ病院に外科部長として赴任しました。当時は胃がんの患者さんのほとんどが進行がん、しかも末期で、外科医は手も足も出ない状態でした。当時、胃がんは不治の病と言われた時代です。言うまでもありませんが、手術ができないということは予後も悪く、外科医としてのやりがいを感じられずに過ごしていました。

 胃がんの場合、まず内科医が診断し、手術適応と判断されたら消化器外科医に紹介されるというのが通常の治療の流れです。私もその方法で待機していたのですが、なかなか手術できる状態の人が紹介されない。当時は年齢も若かったのでついにとさかに来ましてね。外科医でありながら胃がんの診断学を修得し、自分自身でがんを発見したいとの思いで胃がん専門病院での研修希望を病院長に申し出たんです。

 それから川崎市がん検診センターへ奉職しました。胃カメラや胃X線造影は、最初は見よう見まねで、私より若い順天堂大学白壁内科教室員が一生懸命教えてくれました。

 3か月ほど胃X線造影検査と胃カメラ検査を一通り学んだ後、センターの所長が診断学の研修目的で国立がんセンターを紹介してくれましてね。午前中は川崎検診センターに勤務、午後は国立がんセンターへ出かける生活が始まりました。

 まずはレントゲン診断学を研修目的とし、放射線診断部長の市川平三郎先生の門をくぐりました。そして6か月後、病理部部長の佐野量造先生が「そろそろ胃がん臨床病理の勉強をしなさい」と誘ってくださいました。さっそく胃がん病理症例検討会に伺いましたところ、佐野先生から「この標本をご覧いただいて有田先生の考えを聞かせてください」と言われたんです。「これは進行胃がんですね」と申し上げたら「どうして胃がんなのですか」と厳しく問われました。「誰が何と言おうと自分の経験から胃がんは胃がんです」と応じますが、かみ合わない。「理由を説明できないのは学問ではない」と言われ、がっくりきました。

 初めてがんセンターを訪れた医師は、そんな具合にコテンパンにやられるんです。それでも食らいつくドクターは将来性があると見てもらえるんですね。東京にいる間は胃がんのレントゲン診断学や切除胃の病理所見の勉強に集中しました。

 1年半が過ぎてアルメイダ病院に帰り、X線造影胃装置も内視鏡もすっかり機器を新規購入してもらいましたが、残念ながらアルメイダ病院は医師会員が患者さんを紹介するという施設だったので、自分で診断する機会も得られず、仕方なく医師会の先生方を対象に胃がん診断学の勉強会を開催してみましたが、結局はうまくいかなかったですね。

 その後、誘われて古澤胃腸病院の副院長になりました。院長は大学の先輩で、大分県下に胃カメラを広めた有名な先生でした。県下に名が通っていたので、ものすごい数の胃がんの患者さんが来院し、多数の手術件数を誇っていました。

 5年後には大分市内でビル開業し、わずか1年間でしたが、自分で診断して、アルメイダ病院で自分で手術する形態(開放型病院)をとりました。そして、その1年後、現在地に開院しました。患者さんも徐々に増え、ベッド数も増やしていきました。

 大分医科大学(現・大分大学医学部)からドクターの応援が得られるようになり、外科は当時の第一外科、内科は消化器内科、その後、放射線科医や内科の肝臓専門医も参加してくれて、多くの患者さんに対応すべく、病院のスタッフも増やしていきました。

早期胃がん患者を術後合併症で苦しませないために

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院長室には、佐野量造先生など、お世話になった先人の写真が並ぶ。

 胃がんの手術で胃の3分の2以上を切除(定型手術)したり、徹底的にリンパを切除したりすると様々な術後合併症があります。

 まず胃が小さくなり、食べたくても十分に入らなくなります(小胃症状)。そして胃の内容物が急速に小腸に流れ落ちることによるダンピング症候群。さらには、十二指腸液、すい液、胆汁が逆流することで残胃の胃炎や逆流性食道炎が起こります。これらは将来、残った胃のがん化にもつながりかねません。また自律神経を切離すると胆石もできやすくなります。

 今や早期胃がんは治るもので、「命さえあればいい」という時代ではなくなりました。早期に発見される症例が増えてくる中で、患者さんが術後合併症に苦しむような状態にはしたくないと、機能温存手術に取り組んできました。

 早期胃がんの90%の患者さんにはリンパ節転移はありません。転移を見落としてはいけませんし、あれば定型手術で徹底的に取るのが当然ですが、親からもらった胃や自律神経を切離せずに済むならそれに越したことはないんです。

 当院では、術中に色素法によるセンチネルリンパ節(胃がんが最初に転移するリンパ節)生検をして、転移がない場合には、できる限り胃と十二指腸の境の幽門輪を温存する「幽門輪温存胃切除術」をします。また、幽門がどうしても残せないときには、切除部分の残胃と十二指腸間に約12cm長の小腸を間置する再建術を施しています。

 以上、要約しますと、センチネルリンパ節陰性の場合には、自律神経温存の上、機能温存手術すなわち幽門輪温存手術(PPG)又は残胃・十二指腸間に長さ12cmの有茎空腸間置術(DG‐JI)を行ないます。現在までに、PPGが112例、D‐-JIが96例(1993年10月~2014年12月)計208例を行なっております。

 機能温存手術をやり始めたら術後愁訴が軽微なため、進行胃がんに比べて術後長期の外来経過観察でも楽しくなり、すっかりのめりこみ今日まで来ました。これが私の生きがいです。


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