徳島県立海部病院 院長 坂東 弘康
昨年、徳島県病院局は海部郡牟岐町にある県立海部病院の移転を決めた。同院は3つある県立病院の一つで、県南部においての拠点的施設。徳島大学の「総合診療医学分野」、「地域産婦人科診療部」、「地域脳神経外科診療部」の3つの寄付講座が設置されているだけでなく、県内の人材育成の拠点の一つでもある。
ここは海に近い立地です。巨大地震による津波被害が懸念され、当初は高額な機器を高い階数に上げようというだけの計画だったのですが、そのためには建築物の補強などが必要で、建て替えた方が良いことが分かりました。
移転先は牟岐町以外も検討されましたが、結局は現病院から見える位置になりました。山を一つ平らにして、その上に病院を建てます。海抜16mの高さなので、1階に高額な機器を置くことができました。想定される最大の津波の高さの2倍以上の高さで安心です。
新病院は、鉄筋コンクリート造・免震構造の6階建て。病院のほかに徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部総合診療医学分野の地域医療研究センターが入ります。当初センターは別棟にする予定でしたが、敷地面積の都合で一体になりました。病院が持つ大講堂や会議室のほかに、センターが持つ大きな研究室があります。
結核病床4、感染病床4を含んで110床という規模の病院ですが、県立病院として機能は充実しています。飯泉嘉門知事が医療問題に熱心なことに加え、県庁の職員が当院を重要視しているからです。県庁の各部署が協力的で、院長としてはやりやすい環境だと思います。
新病院の大きな特長は、ツインヘリポートで、同時に2機のヘリを運用することができます。病院屋上部分のヘリポートは10t、平時は駐車場として用いる地上ヘリポートは12tまでのヘリを受け入れることが可能です。ドクターヘリのほか、海保や自衛隊の救難ヘリが着陸することを想定しており、先端災害医療拠点としての機能が重視された設計です。大きな災害倉庫を備え、物資を備蓄するのにも適した形になっています。4階の病棟は被災患者を受け入れる災害病棟として機能する計画にもなっています。
ヘリポートによって、平時の救急医療も当然強化されます。徳島県では2012年から県立中央病院(徳島市)でのドクターヘリの運用が始まっています。今後は当院でも、他の県立病院や大学病院と協力する形で、ツインヘリポートが活用できると考えています。また郡内にある離島の出羽島の患者さんも診ていますから、活用することがあるでしょう。
周囲の病院が救急車を受けられない事情があり、当院は救急医療に力を入れていますが、今回の建て替えでこの機能が大幅に強化されることは難しいと思います。
脳卒中などに対応するため、2013年から始めたKサポートシステム(スマートフォンとインターネットを利用した遠隔診療支援システム。現場の医師が画像情報などを送り、遠隔地の専門医から支援を受けるほか、救急隊からの迅速な情報提供を受ける)は医師不足を解消するには良い仕組みです。徳島大学地域脳神経外科診療部の影治照喜特任教授が導入し、投薬の可否判断などの難しい判断を頼ることができ、助かっています。医師不足の解消が急速に進むとは考えていませんので、新病院でも用いることになると思います。
現在郡内の2町立病院(美波町国民健康保険由岐病院・海陽町立海南病院)のほか、当院出身の医師が多数在籍する那賀郡の那賀町立上那賀病院と協力体制を整えています。上那賀病院はKサポートシステムを導入予定で、当院のサーバを使う計画で進んでいます。
深刻な医師不足に対応するためには、自分たちで医師を育てなければなりません。医学生が総合医学分野の地域医療実習を学びに来るほか、研修医も来ます。総合診療の専門医を目指す後期研修医が、今は神戸から学びに来ています。
また病診連携をしてもどうしても隙間ができますから、当院では訪問診療も行なっています。看取りも年間10例以上あります。新病院に移行しても、こういうことは大事にしていきたいですね。