医療法人社団三杏会 仁医会病院 院長 阿部 克成
◇受賞 腎不全病態治療研究会最優秀賞(2004 年)
◇所属学会 日本内科学会、日本腎臓学会、日本透析学会、日本糖尿病学会、日本臨床生理学会、国際腎臓学会、アメリカ腎臓学会
1980(昭和55)年に腎臓病の専門病院として大分市古国府に開設された、仁医会病院。透析医療に力を注ぎ、透析機器の数は外来透析室72台、病棟透析室20台に上る。MRIやマルチスライスCTスキャンなどの最新の医療機器を取り入れ、画像診断も行なう同病院で、阿部克成院長に話を聞いた。
Q.大分地域の現状は。
大分県は人口10万人当たりの透析患者数がワースト10に入っています。大分市を見ると、透析導入になる方が多いということもわかっています。理由はよくわかっていませんが、きちんと治療を受けていない方が多いということは言えると思います。
慢性腎臓病「CKD」という言葉があり、新しい国民病ということで広く啓蒙が始まっています。原因はさまざまあり、一番は糖尿病、腎炎、高血圧と続きます。
CKDは自覚症状が出るまで非常に長い時間がかかるのですが、症状が出てから透析が必要になるまではあっという間です。症状がないものですから患者さんはなかなか治療に来ませんし、腎臓が悪いと言われても治療しようとしない、それがこの病気の特徴です。
いかに早く患者さんの病気を見つけるか、そして腎臓が悪いということを理解してもらい、治療を始めるかが、腎臓病の大事な点、治療の肝になるわけです。
腎臓の働きというのは老化でも低下します。しかし病気の人はもっと早いペースでそれが落ちてしまいます。糖尿病、腎炎、高血圧といった病気を早く見つけて透析に至らないようにすることが重要で、それが腎臓病の治療になります。
腎臓病は「この薬さえ飲んでおけばよくなります」という病気ではありません。日常の食事内容や生活習慣が治療にとって大事であることを理解していただくことが治療の上で重要なポイントとなります。
Q.食事で見直すところは。
腎臓病患者さんが注意しないといけない点としては塩分摂取と蛋白摂取が上げられます。塩分や蛋白の過剰摂取が高血圧などを介して腎機能を低下させることがわかっていますので腎機能を保持するためにも如何に塩分、蛋白摂取量をコントロールしていくかが大切になってきます。当院ではCKD患者さんには積極的に24時間蓄尿を行ない、1日分の塩分や蛋白摂取量を計算し、患者指導を行なっています。また、3日間の食事内容を記入して頂き、管理栄養士により食事内容の改善点などの指導を行なっています。
Q.治療における独自の取り組みはありますか。
腎臓の構造と働き、慢性腎臓病の定義や病期ステージ、検査や治療法などが書かれた病院独自の「腎臓病治療マニュアル」。表やイラストも多く、分かりやすい内容。患者に1冊ずつ渡され、医師はこのマニュアルを開いて説明、数値も記入する。
腎臓病は一種の生活習慣病ですから、患者さん自身に注意していただかないといけないことも多くあります。
そのような状況から、私たちの病院では「腎臓病治療マニュアル」という冊子をつくって患者さんに渡し、診療の際に持参してもらうようにしています。
この冊子には腎臓の働きや構造など治療を受けていただくのに必要な基本的な知識のほか、食事の摂り方、飲酒量、腎機能を急激に悪化させる原因や注意事項を書いています。スタッフが患者さんに説明する際にも、これを一緒に見ながら話をし、患者さんが後で振り返れるようにしています。クレアチンの値や血圧、体重などを記入していけるフローシートも一緒につけていますから、患者さん自身が腎臓の状況や体の状況を時系列で把握でき、振り返ることができるというのも特徴です。
Q.スタッフ教育で心がけていることは。
透析の患者さんは週3回、しかも10年、20年と通われますから、お互いに慣れてきます。でも、慣れ過ぎはよくありません。親しさのなかにも礼儀が必要ですし、逆に患者さんの方に甘えが出てきてもよくありませんので、そこは注意するようにしています。
年1回春には接遇の勉強会をしています。患者さんとの付き合いが長いからこそ注意すべき点がありますので、そこは再確認してやっていこうと思っています。
Q.院長として経営面で配慮していることは。
いかにコストを抑えるか、簡略化するかということが大事になります。でもあまりにも省いてしまっては医療が成り立ちませんので、そのバランスが大事ですね。
透析患者数は大分市で最も多く、県内でも1番か2番だと思います。数多くいる患者さんに、いい医療を提供するということを考えています。