長崎大学大学院医歯薬学総合研究科/医療科学専攻展開医療科学講座/麻酔・蘇生科学分野 教授 原 哲也
2013年11月に長崎大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生科学分野に就任した原哲也教授。1年余がたつのを機に、力を入れてきたことや手応え、今後の目標をたずねた。
まず、麻酔科への新入局者を増やすことがあります。学生や研修医への教育を通してこの教室をアピールし、実際に体験してもらう中でも面白さを実感してもらいたいと思っています。
―「実際に体験してもらう」とはどのように。
全部やってもらいます。薬の投与や気管挿管、人工呼吸、薬を投与しながら血圧を管理するとかです。麻酔薬の量の調整や、場合によっては輸血が必要だったりと、手術中には何かしら体を動かしています。救急になれば心肺蘇生もあります。
―麻酔医の面白さとは。
麻酔というよりも急性期の全身管理を自分で実際に行なえることです。
医局としては麻酔だけではなくて、集中治療とか救急、ペインクリニックや緩和医療というような、麻酔に関連した領域に関わることになるので、単に手術中の麻酔だけでなく、いろんなサブスペシャリティをもって周術期管理が学べます。
国の方針で緩和医療のできる医者を育てようということになってきていますので、卒後3年目くらいまでに全員が緩和の研修を受けることになります。若手の医者は全員が通っていく道ではあると思います。外科でも内科でもがんの痛みをどうコントロールするかが重要なところですから、そのための研修会はうちの教室員が企画しています。
―入局者数の状況は。
増えたというか安定してきています。去年(2014年)は4人入局し、一昨年とその前が1人ずつでした。今年は4、5人くらい入りそうな感じです。
入局者が増えれば麻酔科医が数多く育つことになり、それが地域医療の貢献につながります。長崎県内で手術を待っている患者さんのためにマンパワーをいかに増やすかということです。
―1年経って課題は見えてきましたか。
課題は山積で、研究も臨床も教育も、どれをやるにしてもマンパワーは必要です。たとえば研究では、ちゃんとした論文を英語で書ける医者を育てなければいけません。そのためには人数が必要です。
論文がなければ大学病院の教員にはなれませんし、自分のキャリアアップのためにも大事でしょう。また大学だけでなく、関連病院でも臨床研修をしたり論文を書いたりすることを指導できる人を地域の病院に出して、そこでさらに大きく育ってもらうことも必要かなと思います。まだ緒についたばかりで、5年後、10年後にどうなるかでしょうね。
外科系が手術をしたいのに麻酔科がいないから手術ができない、というのがやはり一番の問題でしょうから、そうならないためには麻酔科医を増やさなければいけません。
そのためには、ただ麻酔の臨床をいろいろやって体を動かして頭も使って面白い、というだけでは足りないだろうと思います。自分のやったことを学会で発表して、時には海外でも発表し、論文にまとめるという作業が入ると、また面白くなってくるんじゃないでしょうか。「手術がありますから麻酔してください」と言われて麻酔をするわけで、どうしても受け身になりがちですから、能動的に自分からやっているという気持ちを持つためにも、学会発表と論文作成は大事だと思いますね。そしてそれに結びつくような教育を臨床の場でやっていると、学ぶほうも興味を持ちやすいでしょう。自発的に行動できる環境をつくることですね。
そういったことを学生や研修医に正しく伝えなければなりませんから、そのためにコミュニケーションは大事です。
―医局に長く関わっての感想は。
自分の好きなこと―手術の麻酔だけでなく、治療にしろ救急にしろ、ペインクリニック、緩和など、それぞれに特色がありますから、自分に合ったことが医局でできることでしょうか。
長崎大学はいろんな急性期医療をカバーしていますので、いろんな分野の医師とディスカッションする中で麻酔の質が上がるでしょうから、それぞれの領域も高まることにつながっていると思います。
結局、手術待機患者をなくすためには麻酔科医がいっぱいいなければいけないわけです。そのためには麻酔科は魅力的だとアピールしなければなりません。その「魅力的」という中に海外の学会に行くとか論文をたくさん発表するとかの目標があるのだろうと思います。