精神科の知識・技能は医師全員に必要なもの

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徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 精神医学分野 教授 大森哲郎

大森哲郎(おおもり・てつろう)/1981年北海道大医学部卒。同大医学部附属病院、市立札幌病院、市立室蘭総合病院の後、1985年米・ケースウエスタンリザーブ大。その後、北海道大助手、同講師、同助教授を経て1999年徳島大医学部教授。日本精神神経学会理事、日本生物学的精神医学会理事など。

Q.精神科を選んだ理由を教えてください。

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 精神科医で物書きの人がいます。北杜夫、加賀乙彦、なだいなだ...。北杜夫の「楡(にれ)家の人びと」は精神科病院の一族の話ですし、加賀乙彦の「フランドルの冬」はフランスの精神病院が舞台です。そういった本を読んでいるうちに興味をひかれました。

 それから、私がいた北海道大学の精神科がいい雰囲気でした。それでも内科にしようかずいぶん迷った末に精神科医になりました。なってみると、おもしろくてやりがいがあって、いい選択をしたと思っています。

 北大の当時の教授は山下格(いたる)先生で、そうそうたる先輩もたくさんいて活気がありました。その中で最初の勉強ができたのは幸運でした。今、若手を指導する立場になっています。みんなが勉強しやすい、のびのびと力を発揮してもらえる医局にしたいと思っています。

Q.取り組んでいる研究は。

 精神科の研究には大きく分けて「生物学的」と「心理学的」なものがあり、私がやっているのは、生物学的な研究になります。もとは薬理学から始まったのですが、徳島大学に来て画像や遺伝子の研究も始めました。

 画像では、今ではグルタミン酸やGABAといった伝達物質を測ることができます。その方法で統合失調症や強迫性障害で異常がないか調べる研究をしてきました。

 また、精神疾患は遺伝疾患ではありませんが、体質が伝わるのと同じように、なりやすさは多因子によって伝わります。そういう遺伝子を探す研究もしています。

 でも遺伝子だけで決定されるわけではなく、早期の環境要因も知られています。そこで「エピジェネティックス」という、遺伝子の配列そのものではないですが、いろいろな影響で遺伝子の働き具合が変わっていく現象にも取り組んでいます。

 例えば、胎生期や生後間もなくの影響は大人になっても残ります。例を挙げると、虐待は単に心理的影響だけでなく、遺伝子の働き具合を変化させるようなのです。その仕組みがエピジェネティックスで、まだ臨床とは直結しませんが、いずれ精神疾患の理解に大事になってくると思います。

 うつ病や統合失調症の診断マーカーの研究も進めています。認知症は脳の写真を撮れば脳の委縮が写ります。でも、うつ病、統合失調症、双極性障害(躁うつ病)といった精神科の病気には検査がありません。

 たとえば、うつ病の診断には症状を丁寧に聞く作業が大事ですが、それにはある程度の技能が必要ですし、時間もかかります。よくある病気なので内科の先生も診ますが、全員が熟練しているわけでもなく、診察に必要な小一時間程度の時間をかけられるわけでもありません。そのため診断が非常に難しく誤診が少なくありません。

 うつ病は、「落ち込む」「悲しい」という正常な心理反応と違い、脳に機能的な変化があると想定されています。遺伝子の配列は脳も血液も全部同じですし、自律神経や内分泌や免疫系の機能変化を介して脳の影響が血液に反映しているところがありそうです。将来的には、面接して経過と現在症を捉え、補助検査としてマーカーの判定を見て、さらに追加の面接や検査をして診断を詰めてゆく、となればよいと思っています。

Q.取り巻く環境の変化は。

 私が大学を卒業したころと比べると大きく変わりました。病気そのものも変わり、たとえば摂食障害は当時、珍しい特殊な病気でしたが、今は若い女性にはかなりの頻度で起こる病気になりました。また、世の中が変わって、精神科の敷居はかなり低くなりました。診療施設も変わり、クリニックがたくさんでき、病院も明るく広くきれいになって受診しやすくなりました。

 ゲームやインターネットは急速に社会に普及しましたが、功罪両方の影響があります。ネットで病院情報を見て、来院する患者さんも増えてきています。家にいながら情報を探せるので、患者さんの役に立っています。同じ悩みを持つ患者さん同士で、ネット上でつながりができることもあります。一方で、一部の人はゲームやネットに没頭してしまいます。引きこもりを助長してしまう場合もあります。

Q.精神科の今後について。

 アメリカと日本の医学教育にはだいぶ違いがあり、大きな違いが臨床現場に出て勉強する時間です。アメリカは72週、日本は50週ほどです。これを各大学、アメリカの基準に合わせようとしているところです。

 内容的にはアメリカでは精神科の実習に6週間程度かけています。日本は2週間です。アメリカは卒業時点で、まずはプライマリーケアができる医師を養成することに徹底しています。

 精神科の知識技能は医師全員がある程度は持っていたほうがよいのです。一般病院に入院している人を見ても、うつ病、せん妄、認知症の人は多いです。それをきちんと診るためには、学生の教育や研修の中で精神科の勉強をしっかりやることが必要です。

 以前の精神科は統合失調症や重症なうつ病を中心に診ていました。今は、がんの患者さんの心理面のケアや、災害後の心のケアも必要とされています。徳島大を含む日本のいくつかの大学の精神科から、東日本大震災の被災地のひとつである岩手県に今も支援に行っています。守備範囲は広がっています。


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