特定医療法人萬生会 熊本第一病院院長 野上 哲史
Q.地域に根ざした病院を目指しているそうですが。
125床の病院で一般病棟と療養病棟に加え、今年の10月より地域包括病棟が発足しました。 医師は内科系のさまざまな専門医で構成され、糖尿病や代謝疾患、血液疾患および腫瘍、呼吸器、肝臓の疾患に加え終末期医療、栄養障害が主な範囲となります。
特に高齢の患者さんにおいては、亜急性期から回復期、慢性期に至るまでの包括的な治療やケアの水準維持のために、当法人傘下の在宅部門をはじめ地域の多くの医療・介護施設との連携を綿密に保つように心がけています。
Q.栄養管理を重要視されていますね。
タイムリーで継続的な栄養管理こそが、いろいろな疾患への専門的治療の効果を支える礎であるという気持ちは従来から強く持っています。
平成15年に赴任してすぐにNST(栄養サポートチーム)を作り、院長直属の組織にしました。以前、急性期の病院で栄養管理を実践した一定の成果がありましが、回復期から慢性期の病棟でこそ医療を変革できるのではないかというのが、当院へ赴任した理由の一つでした。
現在、個々の患者さんの栄養管理のために5名の管理栄養士、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、リハビリ、MSW、事務職員の全員で目標や問題点を共有し、摂食、嚥下を含めた栄養に関するトータルケアを展開しています。
ただ、院内で本当に栄養療法が根付くためにはNSTのメンバーだけでなく、全職員の栄養に関する熱意が必要と考えています。今では職員の意識は大きく変わり、病院内で栄養に関する患者さんとの会話や職員同士の討論をひんぱんに耳にします。どんな疾患であれ、人はしっかりと食べることで立ち上がろうとし、立ち上がることで前に歩いて進もうとするのではないでしょうか。
Q.ご自身も食に興味が深いのですか。
農村に生まれ育ち、旬の作物の素晴らしさを知り、ずっと食への興味は続いています。
5、6年前から家の近くに30坪程の畑でいろんな野菜を栽培しています。院内でも小さい園芸部を作り、キャベツ、イモ類、ゴーヤなど無農薬の作物を、給食や職員でいただいてもいます。
栄養不足の患者さんにとって必要な栄養補給は絶大な効果を発揮します。この場合、薬以上の、命に直結した効果がみてとれます。ちなみに、野菜作りにおいても太陽の光、温度に加え堆肥にチッソ、リン酸、カリなどの肥料と水の供給の善し悪しが成長に直結する点では、まさに栄養管理そのものです。
また、食事療法というのは、その基本となる在宅においていろんな困難に直面します。糖尿病の自己管理にしろ、様々な障がいのある方の栄養管理にしろ、必要なサポートがなければ挫折しやすいものです。入院中は栄養状態が良くても、退院後はいろいろ心配です。今後退院後の在宅での栄養ケアに深く取り込んで行こうと考えています。
Q.地域連携室について教えてください。
6名の医療ソーシャルワーカーが常勤し、地域連携室を設けて随時対応しています。患者さんの入退院に関わる全ての情報管理、薬、医療器具、栄養状態、摂食状態、経済状態、社会的境遇、在宅での介護状態など、あらゆる情報を医療スタッフと連携して共有し、ネットワークづくりをしています。また、患者さんの求めることが現実的に可能かどうか、多層な情報を分析し、納得していただくように解決にあたります。今後さらに重要な部門となることが予想されます。
Q.自家発電と井戸水濾過の装置が目を引きます。
熊本は地下水が潤沢で有名です。当院では汲み上げた地下水を安全な水にろ過し、飲料水として利用しています。この地下水膜ろ過システムにて、施設内全ての水を賄っています。
重油を使用した自家発電の装置もあり、災害時のライフラインを確保することで病院だけではなく、近隣地域の避難拠点になります。
Q.趣味は何ですか。
まずは、チェロを弾きます。河北誠理事長のピアノや他の職員とともにクリスマスなどには院内で演奏しています。
それに野菜作りとそれを料理して食べることです。以前からイタリアの音楽や食材・料理が好きで、いつかあちらの農村や漁村をゆっくりめぐりたいなと思います。実は数年前からイタリア語習得にもはまっています。
夏は朝5時から鍬入れしています。以前は水泳やマラソンをやっていましたが、畑仕事はハードで、体力作りもこれで充分です。