医療と法律問題|九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

医療事故と法律16

 前回は、民事医療過誤訴訟における因果関係の立証の程度に関する判例として、昭和50年のルンバール事件判決を紹介しました。これは、医療行為における過失が患者死亡という結果を招いた高度の蓋然性が証明された場合に、因果関係を肯定することができるという趣旨の判例です。

 最判平成一二年九月二二日は、次のような判断を示しています。

 「疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である」

 これは、突然の背部痛で目を覚ました男性が、明け方、相手方医療機関の夜間救急外来を受診し、急性膵炎との診断でFOYの点滴を受けている間に死亡したという事案です。一審東京地裁は、死因自体が不明であるため救命可能性が判断できない、仮に原告側の主張通り急性心筋梗塞による死亡であったとしても、診察から急変までの時間からして、医師の作為または不作為と患者死亡との間に因果関係を認めることができないとして請求を棄却しました。

 一方、二審東京高裁は、患者の死亡原因を急性心筋梗塞と認定、医師が、胸部疾患の既往症について問診せず、血圧、脈拍、体温等の測定や心電図検査を行うこともせず、狭心症の疑いを持ちながらニトログリセリンの舌下投与もしていないことを注意義務違反と評価します。そして、因果関係について、「救命し得たであろう高度の蓋然性までは認めることはできないが、これを救命できた可能性はあった」と認定し、注意義務違反によって適切な医療を受ける機会を不当に奪われ精神的苦痛を被った慰謝料として、医療機関に対し200万円の支払を命じました。

 医療機関側が上告。これに対して最高裁は、先に引用した判断を示して上告を棄却しました

 この判例については、人の生命という法益とは別に、「注意義務違反がなければなお生存していた相当程度の可能性」という法益を認めたものであるという解釈と、法益自体は人の生命なのだけれども、因果関係の立証の程度を緩和して、損害賠償が認められる範囲を合理的な範囲に画したものという解釈との二通りがあるのですが、いずれにせよ、医師に注意義務違反が認められれば、結果との間に高度の蓋然性が認められなくても民事上の責任が認められるという結果は同じです。そこには、人の生命という重大な法益が侵害されている場合に、注意義務違反と結果との高度の蓋然性が認められないからといって責任そのものを否定してしまうことは、社会的損失の公平な分担という不法行為法の指導理念にそぐわないという価値判断が示されているように思われます。

 ■九州合同法律事務所=福岡市東区馬出1丁目10-2メディカルセンタービル九大病院前6階TEL:092-641-2007


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る