第55回 日本人間ドック学会
9月4日と5日の2日間、福岡市博多区の福岡国際会議場で第55回日本人間ドック学会学術学会が開催された。会長は福岡赤十字病院の寺坂禮治病院長。主催者発表によると、参加者は3千500人だった。同学会学術学会が福岡県で開催されるのは、平成3年の第32回大会以来の2度目。寺坂会長は開会式で「23年ぶりの開催を、福岡赤十字病院のスタッフ一同誇りに思っている」と述べた。
検診部門で宣伝を
寺坂会長は外科医で検診にはあまり関わってこなかったが、検診施設を持つ総合病院の院長の立場で会長講演を行なった。
寺坂会長は健診や検診は本来診療報酬支払の対象外であり、臨床の現場での早期発見は困難だと述べ、自由診療である人間ドック・検診業務の重要性を強調した。同時に、有症状の検診は現在保険診療で行なわれているが、どこまでを有症状とするかの線引きが曖昧だと指摘した。
また、検診部門の機能は、総合病院の急性期診療機能に最も近いという意見を示した。検診部門は病院内における「自由診療特区」であると言い、病院内部署として唯一宣伝活動が許されていると伝えた。病院に来てもらえることや、診療機能の体験だけでなく、映像を流して病院の宣伝ができると述べた。お客さんに対し居心地のいい環境を心掛け、十分なサービスを提供することで、病院本体の広報として機能すると説明した。
福岡発、平成の養生訓
最優秀口頭発表賞は「尿蛋白測定試験紙(±)症例における腎機能低下に関連する因子についての検討」を講演した新潟県健康管理協会の番場一成氏=写真上。最優秀ポスター発表賞は、「人間ドックのオプションとしてのOCT検査の有効性の再検討」を発表した北見赤十字病院検査部の小野直和氏=同下。
福岡らしさが際立った学会だった。今回のメインテーマは「福岡発平成の養生訓」。福岡藩で養生訓を記した本草学者の貝原益軒の子孫が、寺坂会長の医局の後輩で、開催が決まってすぐにテーマが決まったという。
血管機能検査についてのシンポジウム。右から東京医科大学循環器内科学分野の山科章主任教授、佐賀大学医学部循環器内科の野出孝一教授、筑波大学医学医療系循環器内科臨床検査学の石津智子講師、三井記念病院総合健診センターの石坂裕子センター長
日本赤十字秋田短期大学介護福祉学科の宮下正弘特任教授を座長に、日本医史学会前理事長で順天堂大学の酒井シヅ名誉教授・特任教授が、養生訓の解説をした。酒井名誉教授によると益軒が84歳の時の著作で、漢文が尊ばれた時代に仮名交じりで書いたことが庶民にも親しまれる原因になったという。元禄時代は庶民が書物に親しむ時代だが、仮名交じり文の著作に応じた出版社の存在も大きいと分析した。
九州大学大学院医学研究院環境医学の清原裕教授は、昭和36年から福岡県粕屋郡久山町で行なわれている疫学調査(久山町研究)から、生活習慣病と認知症についての分析を講演した。座長は、グランドタワーメディカルコートの伊藤千賀子理事長が務めた。耐糖能レベル別にみた病型別認知症発症率や、血圧レベルの変化別にみた認知症の各病型の相対危険が示された。
そのほか、福岡ソフトバンクホークスの王貞治取締役会長と寺坂会長との対談が行なわれた。定員1千人のメイン会場から人が溢れ、別会場で中継が放映された。司会はFBS福岡放送の山田真由美さんが担当した。
閉会式で日本人間ドック学会の奈良昌治理事長は「欧米の人は病気にならなければ病院に行かない。学会は認定施設を受診した普通に暮らす200万人から選んだ、33万件という膨大な健康な人のデータを持っている。それをもとに血圧の基準値を発表し、今年の春は人間ドック学会が大きく注目された。報道関係者に追い掛け回され大変だったが、現在は理解を得られ、また健診の重要性を広く伝えることができて、良かったと思っている」と締めくくった。