にしくまもと病院 院長 林 茂
過去に何度も廃院の危機に立たされたという熊本市の「にしくまもと病院」。地域の中規模病院としてよみがえり、成長を続けている。林茂院長に、病院運営と医療を核としたまちづくりについて話を聞いた。
―病院の特徴は
手術もできるリハビリ病院、ケアミックスのリハビリ病院と言いたいですね。1988年に西熊本病院として開院し、1992年に「にしくまもと病院」と名称変更しました。2008年に臨床薬理センター、2012年には新病棟が完成し、今年の1月には特定施設(介護サービス付き高齢者向け住宅)「ホスピタウンハウス」を開設、5月からは一般病棟の一部を「地域包括ケア病棟」にして運営しています。1991年に副院長としてきて、翌年、院長になりました。今は医師が非常勤を含めて17名いますが、当初は2人、常勤の正看護師は1人しかいませんでしたね。1988年の初代院長行方不明、1990年の医師大量退職、2002年の親会社の民事再生法と3度の危機を迎えた病院で、悪いうわさを払しょくするのは本当に大変でした。患者さんは少ないし、医者も少ないし。人材探しを一生懸命やりました。副院長として就職し職員面談をした時、「西熊本病院に勤めていると近所に知られたくない」と言われてショックでしたね。病院が落ち着いてから、そのエピソードを人に話すようになったら、家内にまで「実は私も知られたくなかった」と言われました。リハビリ棟を増設したりシンボルマークを作ったり、おまつりを開催したり、出前講座をしたり。とにかく認めてもらわないと、と必死でした。
―どう軌道に乗せたのですか
リハビリを前面に出し、地域の医師会と連携を図りながらやってきました。中小病院は、いかに診療所と大きな病院との間を埋め、つなぐ役割をするかというのが生き残る道だと思います。高度急性期が終わった患者さんをできるだけ早く受け入れて、早く家庭に帰していくことが大切で、慢性疾患高度医療センターを目指していきたいと思っています。また診療科を増やし、リハビリにも力を入れてきました。手術もできるリハ病院ということで関節外科センターを作り、関節鏡(膝・肩・足・股関節等)から人工関節(膝・股関節)、関節周辺骨折の手術とリハビリ。泌尿器科の内視鏡手術、排泄機能検査、排泄リハビリ等。入口(摂食・嚥下・呼吸等)から出口(排泄等)まで、早期リハから、がんや終末期のリハなど、医師を中心として各職種(看介護職、リハビリ職、薬剤師などの医療技術職や事務職等)が密接に協力したチーム医療の充実を図っています。
―「熊本ホスピタウン構想」とは
病院立て直しに向かっていたころ、何か大きな目標を見つけたいと思っていた時に、「米子ホスピタウン」を知りました。ホスピタウンとはホスピタルとタウンを合わせた造語です。医療を核としたバリアフリーの街、子どもからお年寄り、病気の人も健康な人も共生できる街をつくりたいと、1995年に「熊本ホスピタウン構想」をつくったんです。ただ、なかなか浸透しませんでした。平成7年に特別養護老人ホームの理事長になりましたが、平成14年に辞職しました。
今年やっと新しい高齢者向け住宅「ホスピタウンハウス」をつくることができました。病院と廊下続きで、入居者が自分らしく自然体で逝ける、平穏な看取りができるような、自分の親を入れたい、自分が入りたいと思えるような場所にしたいと思っています。ただ、進捗状況はまだ30%ぐらい。病院と薬局、保育所はありますが、診療所を誘致したいんです。眼科、耳鼻科、小児科の。以前は、ホスピタウン構想を話すと「また院長の妄想ですか」などと言われました。でも、私たち団塊の世代は次の世代に迷惑をかけないようにしなければという危機感が、自分の中に常にあります。富合は人口が伸びていますし、JRの駅ができて、区役所もできました。国道3号線もあります。開業して頑張っていこうと思っている方に、ぜひきて診療所を開いていただきたいと思っています。
―整形外科医を目指す人へのアドバイスがあれば
私はこれまで4千300関節以上の関節鏡手術をする事が出来ました。専門を持っていてよかったと思います。これから整形外科医も手術が得意な人や、訪問診療など在宅や地域リハビリテーションの視点を持って、生活(くらし)までをみられる整形外科医。民間病院としては、そういう先生がいてくれたらと思います。ただ、何か得意分野を持っていたほうが絶対にいいですね。